東京への一極集中が続く中、政府は企業の地方移転を後押しする税制を拡充します。2026年度税制改正大綱では、これまで新築物件に限定されていた優遇措置の対象を中古物件の購入や改修にも広げ、税額控除率や特別償却率を引き上げる方針が示されました。
本稿では、この制度改正の内容を整理したうえで、企業・地域・個人それぞれの立場から見た意味を考えます。
地方移転税制の概要
今回の税制措置は、東京23区から地方へ本社機能を移す、または地方で本社機能を拡充する企業を対象としています。
対象となる拠点は、本社機能を有する事務所や研究所などで、「移転型」と「拡充型」の2類型が設けられています。
減税の方法は、税額控除または特別償却のいずれかを選択できます。従来は新築物件のみが対象でしたが、土地価格や建築費、人件費の高騰を背景に、中小企業を中心として中古物件も活用できる制度へと見直されました。
税額控除・特別償却の拡充内容
新築物件については、一定の雇用増加や取得価額の要件を満たす場合、税額控除率が上乗せされます。
移転型では最大8%、拡充型では最大5%まで引き上げられ、特別償却についても拡充型で20%と、従来より高い水準となります。
今回新たに対象となる中古物件については、税額控除が移転型4%、拡充型2%、特別償却は移転型15%、拡充型10%と設定されました。
新築と比べると水準は抑えられていますが、初期投資を抑えつつ地方移転を検討する企業にとっては現実的な選択肢となります。
東京一極集中の現実
制度拡充の背景には、東京への人口・企業集中が依然として続いている現状があります。
東京都の人口は14百万人を超え、社会増は全国最大水準です。一方で、東京から転出する企業も増えていますが、その多くは神奈川・千葉・埼玉といった近隣県への移転にとどまっています。
理由としては、オフィス賃料の高騰やテレワークの普及によるコスト削減などが挙げられますが、地方圏への本格的な分散には至っていません。
税制だけで企業は動くのか
今回の税制拡充は、企業にとって確かに追い風です。ただし、税制だけで地方移転が進むかというと、慎重に見る必要があります。
人材確保、取引先との距離、交通インフラ、教育・医療環境など、経営判断には多くの要素が関わります。
一方で、中古物件を活用できる点は、中小企業やスタートアップにとって大きな意味を持ちます。地方には使われなくなったオフィスや工場が多く、これらを再生する形での移転は、地域経済にも好影響を与えます。
地域・個人への波及効果
企業移転が進めば、地域の雇用創出や税収の安定につながります。空き家・空きオフィスの活用は、不動産市場の活性化にも寄与します。
また、テレワークと組み合わせることで、働く場所と住む場所を柔軟に選べる環境が広がれば、個人のライフプランにも変化が生じます。
地方移転税制は、企業政策であると同時に、人口減少社会における地域と個人の選択肢を広げる制度ともいえます。
結論
中古物件も対象とした地方移転税制の拡充は、実務的なハードルを下げる現実的な改正です。ただし、東京一極集中を本当に変えるためには、税制に加えて人材・生活・インフラを含めた総合的な環境整備が欠かせません。
今後は、企業の動きだけでなく、地域や個人の行動がどこまで変わるのかを注視する必要があります。
参考
・日本経済新聞「企業の地方移転に税優遇 中古物件購入も対象に」
・2026年度 税制改正大綱(地方創生関連部分)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

