【シリーズ】相続税データから読む税制改正の行方 第4回 事業承継税制はどこへ向かうのか──納税猶予データが示す制度の現在地

税理士
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相続税の申告事績には、毎年、事業承継税制の適用状況も公表されています。令和6年分でも、株式等の納税猶予や農地の納税猶予について、人数や猶予税額が具体的な数字として示されました。
事業承継税制は、相続税の中でも特に政策色の強い制度です。単なる税負担の調整ではなく、雇用や地域経済の維持といった目的が明確に組み込まれています。そのため、税制改正のたびに見直しの対象になりやすく、制度の安定性と柔軟性のバランスが常に問われてきました。
本稿では、相続税データに表れた納税猶予の実態を手がかりに、事業承継税制が今後どのような方向で議論されやすいのかを整理します。

納税猶予制度の規模が示すもの

令和6年分のデータでは、特例措置による株式等の納税猶予を受けた人数は400人台で推移し、猶予税額は数百億円規模に達しています。
この数字は、制度が実際に使われていることを示す一方で、税制として無視できない規模になっていることも意味します。猶予はあくまで納税の繰延べであり、理論上は将来回収される建て付けですが、実務上は長期にわたり税収化しないケースも多くなります。
相続税の課税割合が1割を超え、税収全体が拡大する中で、事業承継税制の猶予規模は、今後も財政面・政策面の両方から注視される存在になります。

事業承継税制の本来の目的

事業承継税制は、相続税の負担によって中小企業の事業継続が困難になることを防ぐために設けられています。
特に、株式評価額が高額になりやすい非上場企業では、相続税の納税資金を確保するために株式を手放さざるを得ず、結果として事業の継続や雇用維持が脅かされるリスクがあります。この問題に対する政策的な解決策が、納税猶予という形で制度化されてきました。
相続税データにおける猶予適用人数は、事業承継税制が一定の役割を果たしていることを示していますが、同時に「税制でどこまで事業承継を支えるべきか」という根本的な問いも浮かび上がります。

特例措置と一般措置の位置づけ

現在の事業承継税制には、一般措置と特例措置があります。特例措置は要件が緩和され、利用しやすい制度設計となっており、実際の適用件数も一般措置を大きく上回っています。
この構造は、制度の使い勝手を高める一方で、将来の見直し論点を内包しています。特例が長期間続くことで、それが事実上の標準になり、制度全体の引き締めが難しくなるからです。
相続税データで特例措置の適用が定着していることは、今後の税制改正において「特例をどう扱うか」という議論が避けられないことを示唆しています。

猶予の出口が抱える課題

事業承継税制を巡る実務上の最大の論点は、猶予の出口です。
納税猶予は、一定の要件を満たし続ける限り継続しますが、要件を満たさなくなった場合には、猶予されていた税額が一括で顕在化する可能性があります。この点は、事業の将来不確実性と相まって、後継者にとって大きな心理的・経済的負担になります。
相続税データでは、猶予がどの時点で解除され、どの程度が実際に課税されているのかまでは見えません。しかし、制度が長期化するほど、この出口問題は税制改正の論点として浮上しやすくなります。

中小企業政策との関係

事業承継税制は、税制であると同時に中小企業政策の一部でもあります。
後継者不足が深刻化する中で、税制による支援だけで事業承継問題を解決することは困難です。それでもなお、税制が果たす役割は一定程度存在します。
相続税データを踏まえた税制改正では、「税制で担う役割」と「税制では解決できない部分」をどこで線引きするかが、より明確に問われるようになります。制度の維持・拡充だけでなく、他の支援策との役割分担も含めた整理が必要になります。

今後の税制改正で想定される論点

相続税データから読み取れる、事業承継税制を巡る今後の論点としては、次の点が挙げられます。
第一に、納税猶予の規模が拡大する中で、制度の持続可能性をどう確保するかという点です。
第二に、特例措置を恒久制度として位置づけるのか、それとも見直しを前提とするのかという点です。
第三に、猶予の出口に関するルールをどこまで明確化・簡素化するかという点です。
相続税の課税対象が拡大するほど、こうした論点は財政面からも注目されやすくなります。

結論

事業承継税制は、相続税の中でも特に政策判断が色濃く反映される制度です。相続税データに示された納税猯予の規模は、制度が一定の役割を果たしていることを示す一方で、将来の見直しが避けられない段階に入っていることも示唆しています。
相続税が1割を超える人に関係する税となった今、事業承継税制もまた、税収・公平性・政策目的のバランスを改めて問われる局面にあります。今後の税制改正では、制度の存在意義そのものが、より明確に説明されることが求められるでしょう。

参考

・国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」
・税のしるべ「相続税の課税割合が1割超に、地価上昇や株高などで」(2026年1月5日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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