相続税の課税割合が1割を超えた背景として、国税庁は地価上昇を明確に挙げています。相続税は財産評価額を基礎に課税される税であり、不動産価格の上昇は、そのまま課税対象者の拡大につながります。
特に影響が大きいのが、都市部の居住用不動産です。かつては「自宅がある程度評価額を占めていても、相続税はかからない」と考えられていた世帯でも、評価額の上昇により課税対象となるケースが増えています。
本稿では、相続税データが示す不動産評価上昇の実態を整理しつつ、今後の税制改正で不動産、とりわけ自宅がどのように位置づけられていくのかを考えます。
不動産評価の上昇が課税割合を押し上げる仕組み
相続税の課税判断は、被相続人の財産評価額の合計が基礎控除額を超えるかどうかで決まります。
この仕組みの特徴は、収入やキャッシュフローとは無関係に、評価額の増減だけで課税対象か否かが分かれる点にあります。地価が上昇すれば、生活水準や資産構成が変わっていなくても、相続税の申告が必要になる可能性が高まります。
都市部では、数十年前に取得した自宅が、現在では高額な評価額となっている例も珍しくありません。相続税データにおける課税割合の上昇は、こうした評価額の積み上がりが、個々の家庭レベルで顕在化してきた結果といえます。
自宅に対する税制上の配慮とその限界
相続税制では、自宅に対して一定の配慮が設けられてきました。その代表例が小規模宅地等の特例です。
この特例は、居住用宅地について評価額を大幅に減額できる制度であり、相続税負担を考えるうえで極めて重要な位置を占めています。一方で、適用要件は決して単純ではなく、同居の有無、相続後の保有状況、被相続人との関係性など、複数の条件を満たす必要があります。
課税対象者が限定的だった時代には、こうした複雑さが大きな問題として意識されにくかった面があります。しかし、課税割合が1割を超える局面では、「制度を知っているかどうか」「事前に準備していたかどうか」で税負担に大きな差が生じる点が、制度の公平性として問われやすくなります。
都市部と地方で異なる影響
地価上昇の影響は全国一律ではありません。特に都市部と地方では、相続税への影響の出方が大きく異なります。
都市部では、不動産評価額の上昇が基礎控除を押し上げ、課税対象になるケースが増えています。一方、地方では地価の上昇が限定的であり、同じ制度のもとでも相続税との距離感は大きく異なります。
この差は、税制改正において常に難しい論点になります。全国一律の制度を維持すれば、都市部の負担感が強まりますが、地域別の調整を行えば制度は複雑化します。相続税データは、こうした地域差が実務レベルでどこまで拡大しているかを示す材料として、今後の議論に影響を与えます。
自宅と投資用不動産の線引き
不動産評価を巡る議論では、「自宅」と「投資用不動産」をどこまで区別するかも重要な視点です。
現行制度では、居住用宅地には特例が用意されている一方、賃貸用不動産や事業用不動産は、性質に応じた別の扱いがされています。ただし、実務上は、自宅と賃貸併用住宅、親族居住用不動産など、線引きが難しいケースも少なくありません。
課税割合が拡大する中で、こうしたグレーゾーンが増えると、制度への不満や紛争リスクも高まります。税制改正では、例外を増やす方向よりも、線引きを明確にする方向が選ばれやすい傾向があります。
今後の税制改正で想定される論点
相続税データを踏まえると、不動産評価を巡って今後論点になりやすいのは、次のような点です。
第一に、居住用不動産の評価上昇をどこまで相続税に反映させるのかという問題です。評価額の上昇が生活基盤に直結する場合、制度としての調整が必要かが問われます。
第二に、小規模宅地等の特例を含む軽減制度の在り方です。複雑さを維持するのか、整理・簡素化を図るのかは、課税対象拡大局面では重要な判断になります。
第三に、評価と実勢価格の乖離が大きい局面での対応です。評価の納得性と予見可能性は、今後ますます重視される要素です。
結論
相続税の課税割合が1割を超えた現在、不動産、特に都市部の自宅は、相続税の議論から切り離せない存在になっています。
これまで暗黙の前提とされてきた「自宅はある程度守られる」という認識は、評価額の上昇という現実の前で再検討を迫られています。
相続税データは、制度がどの層に、どのような影響を与えているかを客観的に示しています。今後の税制改正を読むうえでは、不動産評価がどのように扱われるかが、引き続き重要な判断材料になるでしょう。
参考
・国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」
・税のしるべ「相続税の課税割合が1割超に、地価上昇や株高などで」(2026年1月5日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
