近年、国内の社債市場が拡大を続けています。
その背景として注目されているのが、宗教法人や学校法人、財団法人といった非営利団体の動きです。これまで預金中心だった運用方針を見直し、社債を積極的に購入する姿が目立ち始めています。
非営利団体が保有する現預金は約43兆円に達しており、その資金が動き出すことは、金融市場だけでなく日本企業の資金調達環境にも影響を与えます。本稿では、なぜ今、宗教法人や学校法人が社債投資に向かっているのか、その背景と意味を整理します。
非営利団体が「社債の買い手」として浮上した理由
宗教法人や学校法人は、長らく資金運用に慎重な立場を取ってきました。過去には仕組み債などで損失を被った事例もあり、「元本を減らさない」ことが最優先されてきたためです。
しかし、近年の物価上昇が状況を一変させました。
寺院の修繕費や再建築費、学校施設の建て替え費用、奨学金や運営コストなど、あらゆる支出が上昇しています。預金金利が物価上昇に追いつかないなか、現金を持ち続けること自体が実質的な資産目減りにつながるという認識が広がりました。
その結果、比較的リスクが抑えられ、定期的な利息収入が見込める社債が、現実的な選択肢として浮上しています。
社債投資が選ばれやすい構造的な理由
非営利団体が社債投資に向かいやすい理由には、制度面の特徴もあります。
第一に、時価評価や資本規制の影響を受けにくい点です。金融機関とは異なり、保有債券の含み損が直ちに経営を圧迫する構造ではありません。そのため、満期保有を前提とした運用がしやすいという特徴があります。
第二に、運用目的が「高いリターン」よりも「安定的な収益確保」にある点です。社債は株式ほど価格変動が大きくなく、事業会社の信用力を重視すれば、一定の安全性を確保できます。
このような事情から、社債市場では宗教法人や学校法人が有力な買い手として位置付けられるようになりました。
日本特有の社債市場構造
米欧の社債市場では、主な投資主体は保険会社、投資信託、銀行などの機関投資家です。高度な財務分析を前提に、リスクとリターンを厳密に比較しながら投資が行われています。
一方、日本では家計や非営利団体の存在感が相対的に大きいという特徴があります。個人向け社債の普及や、非営利団体の運用姿勢の変化が、市場構造に影響を与えてきました。
この点は、日本の金融市場が「間接金融中心」から「直接金融」へと徐々に軸足を移していることの一側面とも言えます。
企業側にとっての意味
非営利団体の社債投資拡大は、企業にとっても追い風です。
これまで社債の主要な引き受け手だった金融機関は、金利上昇局面で国債の含み損を抱え、投資余力が低下しています。その空白を埋める存在として、非営利団体の資金が期待されています。
社債市場の安定的な需要は、企業が銀行借入に依存せず、直接市場から成長資金を調達する環境を整えることにつながります。
株式投資への広がりはあるのか
一部の宗教法人や学校法人では、将来的に株式投資を検討する動きも出ています。特に、高配当株によるインカム収益への関心は、インフレ環境下では自然な流れといえます。
もっとも、非営利団体には社会的責任や説明責任が伴います。株式投資が本格化する場合でも、慎重なルール整備とガバナンスが不可欠になるでしょう。
結論
宗教法人や学校法人が社債を買い始めた背景には、単なる投資ブームではなく、インフレ経済への適応という切実な事情があります。
現預金43兆円という「眠れる資金」が動き出すことは、日本の金融市場にとって大きな構造変化を意味します。
この動きは、非営利団体にとっては存続のための現実的な選択であり、日本企業にとっては直接金融を通じた資金調達環境の改善につながります。
社債市場を起点としたこの変化が、今後どこまで広がるのか、引き続き注目していく必要がありそうです。
参考
・日本経済新聞
「社債買う宗教法人・学校 現預金43兆円シフトに企業期待」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

