電力争奪戦が招くアルミ危機――AI時代に進む産業構造の静かな転換

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

アルミニウム価格の上昇が続いています。背景には中国の生産調整や需要回復といった従来型の要因に加え、これまでとは異なる構造的な変化が重なっています。それが「電力争奪戦」です。
アルミは製造工程で大量の電力を必要とし、「電気の缶詰」と呼ばれてきました。その電力を、今や人工知能(AI)向けデータセンターが大量に消費し始めています。電力をめぐる競争は、アルミ産業の存続そのものを揺るがしつつあります。

アルミはなぜ電力を大量に使うのか

アルミは、ボーキサイトを原料に電気分解によって地金を製造します。1トンのアルミ地金を生産するのに必要な電力量は約1万5,000キロワット時とされ、一般家庭の年間消費量に換算すると3〜4世帯分に相当します。
このため、アルミ製錬業は「電力価格」が競争力を左右する産業です。安定的で低価格な電力を長期間確保できるかどうかが、操業継続の前提条件となってきました。

実際に起き始めた製錬所停止の動き

近年、この前提条件が崩れ始めています。
オーストラリアでは電気代高騰を理由に大規模製錬所の閉鎖が検討され、アフリカでも電力供給契約の更新ができず操業停止に追い込まれる事例が出ています。
これらは単なる一時的なトラブルではありません。電力価格の上昇と供給不安が、世界各地でアルミ製錬業を直撃し始めていることを示しています。

AIデータセンターという新たな「電力の缶詰」

電力需給をさらに逼迫させているのが、AIブームです。
AIの学習・推論を担うデータセンターは、膨大な電力を24時間消費します。国際機関の予測では、世界のデータセンター電力消費は2030年にかけて倍増し、さらにその先も増え続けるとされています。
データセンターは、アルミ製錬所以上に高い電力価格を支払うことが可能です。短期的な収益性を重視し、電力を「買い負けない」調達ができるためです。

電力価格で勝てないアルミ産業

アルミ製錬業は、1メガワット時あたり40ドル前後で、10年〜20年といった長期契約を前提に電力を確保するモデルを採ってきました。
一方、テック企業は短期契約で100ドルを超える価格を提示することも珍しくありません。この価格差は埋めがたく、電力市場ではアルミ製錬業が後回しにされる構造が生まれています。
その結果、「設備があっても電力がない」「電力が高すぎて操業できない」という事態が現実のものとなりつつあります。

保護政策があっても解決しない問題

一部の国では、アルミ輸入に高関税を課し、自国生産を保護する政策も取られています。しかし、関税で守れるのは価格競争の一部にすぎません。
根本問題は「電力が確保できるかどうか」です。電力インフラが追いつかなければ、製錬所の新設どころか既存設備の維持すら困難になります。
これは政策だけでは解決できない、エネルギーと産業構造の問題です。

銅高騰が拍車をかける需給不安

さらに状況を複雑にしているのが、銅価格の高騰です。
電動化や再生可能エネルギー投資で銅需要が急増する中、代替素材としてアルミへの需要が高まっています。需要は増える一方で、供給は電力制約によって縮小する。
この組み合わせは、価格上昇のスパイラルを生みやすい構造と言えます。

結論

アルミ価格の上昇は、単なる市況変動ではありません。
AI時代における電力の再配分が、産業の優先順位を書き換え始めています。かつて「電気の缶詰」と呼ばれたアルミに代わり、データセンターが新たな電力消費の主役となりました。
エネルギー制約の時代において、どの産業が電力を使うのか。その選択は市場によって静かに、しかし確実に行われています。アルミ危機は、AI時代の産業構造転換を象徴する出来事と言えるでしょう。

参考

・日本経済新聞「電力争奪戦でアルミ危機 製錬所の閉鎖懸念、価格高騰」
・国際エネルギー機関(IEA)データセンター電力消費に関する予測
・非鉄金属市場に関する各種業界資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました