日本全国のコンビニで当たり前の存在となったATMですが、その裏側では大きな構造変化が起きています。
2026年に向けて、セブン銀行がATM1台あたりに入れる現金を約3割削減する方針を打ち出しました。
一見するとキャッシュレス化の流れに沿った対応にも見えますが、背景には日銀の金融政策転換による資金調達コストの上昇という、より本質的な問題があります。
この記事では、セブン銀行のATM現金削減策を切り口に、利上げ時代におけるATMビジネスの変化を整理します。
ATMは「現金を置くだけ」でコストがかかる
ATMは現金を預かり、必要なときに引き出せる便利な装置ですが、銀行側にとっては現金を置いているだけでコストが発生する設備でもあります。
セブン銀行の場合、ATM内にある現金の多くは、
- 短期金融市場での無担保コール翌日物取引
- 社債発行
などを通じて調達されています。
マイナス金利下では、この調達コストは極めて低く抑えられていました。しかし、日銀がマイナス金利を解除し、さらに利上げを進める局面では、調達した現金そのものが「金利負担を伴う資産」になります。
その結果、
- ATM内に多額の現金を置く
- 利用されない時間帯が長い
という状態は、銀行にとって収益を圧迫する要因になってきました。
台数は増えているのに、現金は減っている
注目すべき点は、セブン銀行がATMの台数を減らしていないことです。
むしろ、地方銀行ATMの代替や行政手続き対応など、機能を強化しながら設置台数を増やしてきました。
それにもかかわらず、ATM内の現金残高は減少しています。
これは「ATMの役割」が単なる現金引き出し装置から、決済・入金・行政窓口の代替インフラへと変化していることを示しています。
実際、
- キャッシュレス決済への現金チャージ
- 給与や売上金の入金
といった用途が増え、出金より入金が多いATM(入金超過ATM)も増加しています。
AIが支える「必要最小限の現金管理」
ATMの現金を減らすためには、単純に一律削減すればよいわけではありません。
利用が集中する時間帯や地域では、現金不足が発生すれば利用者の不満につながります。
そこでセブン銀行が力を入れているのが、AIによる現金需要予測です。
全ATMの入出金データを集約し、
- どのATMで
- いつ
- どの程度の出金・入金があるか
を予測したうえで、現金の回収・補充頻度を調整しています。
これにより、
- 不要に多い現金を置かない
- かつ、利用者の利便性は落とさない
という両立を図っています。
「現金を借りる」から「預金を集める」へ
もう一つの重要な動きが、預金獲得へのシフトです。
短期市場や社債での調達は、金利上昇局面ではコストが不安定になります。一方、預金は相対的に安定した資金源です。
セブン銀行が定期預金の金利優遇キャンペーンを再開した背景には、
- ATM拡大による現金需要増
- 利上げによる市場調達コスト増
という二重の圧力があります。
ただし、預金金利を引き上げれば、それ自体がコストになります。
今後は、短期的な金利競争に陥らず、いかに効率的に預金を集めるかが各銀行の経営課題になります。
ATMビジネスは「金利のある世界」に適応できるか
2026年以降、セブン銀行はファミリーマートへのATM展開も進め、国内最大級のATMネットワークを構築する予定です。
台数が増えれば増えるほど、
- 現金調達コスト
- 警備・輸送コスト
- システム維持費
は確実に膨らみます。
日銀が利上げを継続する以上、ATMビジネスは「金利ゼロ前提」のモデルからの転換を迫られているといえます。
今回の現金3割削減は、その象徴的な一手といえるでしょう。
結論
セブン銀行のATM現金削減策は、単なるコストカットではありません。
それは、
- 利上げ時代
- キャッシュレス進展
- 人件費・警備費の上昇
という環境変化に対応するための、ATMビジネスモデルの再設計です。
今後は、ATMの台数や利便性だけでなく、
「どれだけ効率よく現金を回せているか」
が銀行の競争力を左右する時代に入っていくと考えられます。
参考
・日本経済新聞「セブン銀ATM、現金3割削減 1台あたり2000万円に 利上げで資金調達費増」(2026年1月8日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

