健保組合の保険料率引き下げと国費投入の意味――協会けんぽ剰余金を原資とする「ゆがみ是正」は何をもたらすのか

FP

2026年度予算案において、健康保険組合の保険料率引き下げを目的とした国費200億円の投入が盛り込まれました。
背景にあるのは、協会けんぽの保険料率引き下げと、それに伴って顕在化した保険者間の不均衡です。

本記事では、この国費投入の仕組みと狙いを整理したうえで、企業・加入者・制度全体にとっての意味を考えていきます。


健康保険制度における「保険者間格差」という問題

日本の被用者保険は、大きく「健康保険組合」と「協会けんぽ」に分かれています。
前者は主に大企業が設立・運営し、後者は中小企業の従業員とその家族が加入しています。

両者の大きな違いは、国庫補助の有無です。
協会けんぽには、医療給付費の16.4%を国が定率で補助する仕組みがありますが、健康保険組合には同様の恒常的な補助はありません。

この構造の違いが、保険料率の差となって表れます。
協会けんぽの料率を下回れない健保組合が増えると、「自前で健保を運営する意味が薄れる」という問題が生じます。


2026年度からの国費200億円投入の概要

厚生労働省は2026年度から、健康保険組合の保険料率引き下げを支援するため、国費200億円を追加投入する方針を示しました。
すでに行われている高額医療費組合への支援(年100億円)と合わせ、計300億円規模となります。

この支援は恒久措置ではなく、時限的な対応とされています。
具体的には、保険料率が9.9%以上の組合を中心に、0.1%程度の料率引き下げが可能となる水準を想定しているとみられます。


協会けんぽ料率引き下げが引き金になった理由

2026年度、協会けんぽは全国平均の保険料率を9.9%とし、前年度から0.1%引き下げることを決定しました。
引き下げは実に34年ぶりであり、制度的にも象徴的な出来事です。

協会けんぽの料率は、長年「健保組合の解散ライン」と意識されてきました。
これを下回ると、健保組合として存続する合理性が問われるためです。

今回の国費投入は、協会けんぽの料率引き下げによって健保組合の解散が加速する事態を防ぐ、調整弁的な役割を果たすものといえます。


原資は協会けんぽの剰余金

注目すべき点は、今回の支援の原資が協会けんぽの決算剰余金であることです。
協会けんぽは法令により、医療給付費などの1カ月分を準備金として積み立てる義務があります。

実際には準備金が法定水準の6倍超に達しており、財政は極めて堅調です。
このため、2026年度から3年間、国庫補助額から差し引く剰余金に年500億円を上乗せすることで合意がなされました。

その一部が、健保組合支援の実質的な財源となります。
制度改正には健康保険法の改正が必要とされています。


「ゆがみ是正」としての評価と限界

今回の措置は、短期的には保険者間のバランスを是正し、現役世代の負担増を抑える効果があります。
賃上げにより保険料収入が増える中で、一定の還元を行うという意味では理解しやすい面もあります。

一方で、税金を原資とした支援をどこまで続けるのかという根本的な問題は残ります。
診療報酬の引き上げ、高齢者医療費の増加といった構造的要因に手を付けない限り、負担の先送りになりかねません。


結論

健保組合の保険料率引き下げに対する国費200億円投入は、協会けんぽとの制度的な「ゆがみ」を調整するための時限的措置です。
制度崩壊を防ぐ現実的対応である一方、医療保険制度全体の持続可能性という課題を先送りしている側面も否定できません。

今後は、給付と負担の在り方を制度横断的に見直し、誰がどこまで負担するのかを改めて問い直す議論が不可欠です。
今回の措置は、その議論への入口に過ぎないといえるでしょう。


参考

・日本経済新聞
「健保組合の料率下げへ国補助200億円 保険者間のゆがみ是正」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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