為替市場では長らく「ドル一強」の構図が続いてきました。
しかし近年、その前提が静かに揺らぎつつあります。地政学リスクの高まり、各国の財政運営や金融政策の違いを背景に、資金はより分散的に動くようになりました。
2026年初頭に見られた英ポンド高は、その象徴的な動きの一つです。
本稿では、ドル・ユーロ・ポンドという主要3通貨を軸に、国際資金がどのような構造で分散しているのかを整理します。
米ドル ― 依然として基軸だが「当事者リスク」も抱える
米ドルは現在も世界最大の基軸通貨であり、国際決済、資源取引、金融市場の中心に位置しています。
有事の際にドルが買われる「安全通貨」としての性格も依然として健在です。
ただし近年は、米国自身が地政学リスクの当事者となる場面が増えています。
その場合、「ドルは安全だが、米国リスクをそのまま引き受ける」という側面も意識されるようになりました。
また、財政赤字の拡大や政治的分断も、中長期ではドルへの無条件の信認を弱める要因となり得ます。
ドルは依然として中心的存在である一方、「唯一の逃避先」ではなくなりつつあります。
ユーロ ― 分散先としての安定性と構造的制約
ユーロは、複数国家で構成される通貨という独特の位置づけを持っています。
欧州は経済規模が大きく、米国に次ぐ投資先としての厚みがあります。
金融政策を担う欧州中央銀行は、インフレ抑制を重視しつつも、加盟国間の経済格差に配慮せざるを得ません。
この点が、政策運営の柔軟性を制限する側面があります。
また、財政統合が限定的であるため、国ごとの財政リスクがユーロ全体の評価に影響を及ぼしやすい構造も抱えています。
それでもユーロは「米国以外の大きな受け皿」として、資金分散の重要な選択肢であり続けています。
英ポンド ― 規模は小さくとも「選別された通貨」
英ポンドは、経済規模や流動性ではドルやユーロに及びません。
それでも近年、特定局面で資金が集まりやすい通貨となっています。
背景には、財政と金融政策の方向性が比較的明確である点があります。
財政規律を重視する姿勢を打ち出したスターマー政権と、慎重な金融政策運営を行うイングランド銀行の組み合わせが、市場の評価を高めました。
ポンドは「大量に逃避する通貨」ではなく、「意図的に選ばれる通貨」としての性格を強めています。
その意味で、資金分散が進む局面では存在感を発揮しやすい通貨と言えます。
三通貨の役割分担が示す市場の成熟
ドル・ユーロ・ポンドの関係を整理すると、次のような役割分担が見えてきます。
ドルは依然として中心であり、短期的な安全資産。
ユーロは規模を持つ分散先。
ポンドは政策姿勢が評価された際に選別的に買われる通貨。
市場はもはや「一つの正解」に資金を集中させる段階を過ぎ、複数の選択肢を使い分ける成熟した動きに入っています。
日本円との対比から見える課題
この分散構造を理解するうえで、日本円の立ち位置も重要です。
円はかつて安全通貨とされてきましたが、財政拡大や金融政策の長期的緩和により、その評価は相対的に低下しています。
日本銀行が追加利上げに慎重な姿勢を続ける限り、円は分散先として選ばれにくい状態が続く可能性があります。
円が再び評価を取り戻すには、金融政策だけでなく、財政や成長戦略への信認回復が不可欠です。
結論
国際資金は、ドル・ユーロ・ポンドを役割に応じて使い分ける段階に入っています。
単純な金利差や短期材料ではなく、財政、金融政策、政治の安定性といった総合的な信認が通貨の価値を左右しています。
為替市場は、各国の政策運営に対する「成績表」のような存在です。
今回の資金分散の動きは、その評価軸がより厳しく、かつ立体的になっていることを示しています。
参考
・日本経済新聞 為替・国際金融関連記事
・日本経済新聞 英ポンド・ユーロ・ドル分析記事
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

