2026年は、企業経営における「当たり前」が大きく書き換えられる年になります。
長年続いてきた商慣行や職場環境が、法改正をきっかけに見直しを迫られているからです。
その象徴が、2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法)と、4月から始まる改正労働安全衛生法に基づく高齢労働者の労災防止に関する努力義務です。
いずれも「弱い立場に置かれがちな存在」を前提に制度設計がなされており、企業にはこれまで以上に説明責任と配慮が求められるようになります。
本稿では、これら2つの改正を横断しながら、企業に何が求められているのかを整理します。
中小受託取引適正化法が示す「立場の上下はない」という発想
2026年1月に施行された取適法は、従来の下請法を約22年ぶりに抜本的に改めたものです。
最大の特徴は、法律用語そのものを見直した点にあります。
「下請事業者」「親事業者」という言葉は、「中小受託事業者」「委託事業者」へと改められました。
これは、企業規模の違いはあっても、取引関係に上下関係はないという考え方を明確に打ち出したものです。
制度面では、手形払いの禁止が大きな転換点です。
現金化までに時間がかかる手形決済は、中小事業者の資金繰りを圧迫してきました。新法では、これを原則禁止とし、資金負担の一方的な転嫁を防ぐ狙いがあります。
また、代金に関する協議の申し出に応じない行為も新たな禁止事項となりました。
形式的に契約を結んでいても、実質的な交渉の機会がなければ取引の公正性は担保されない、という認識が背景にあります。
適用範囲拡大が企業に突きつける実務上の課題
取適法のもう一つの重要なポイントは、適用基準の見直しです。
従来は資本金の額を基準にしていましたが、新法では従業員数も基準に加えられました。
これは、節税などを目的に資本金を1億円以下に抑える企業が増えている実態を踏まえたものです。
形式上は中小企業であっても、実質的には取引上優位な立場にあるケースを見逃さない設計になっています。
結果として、多くの企業が「自社は対象外だと思っていたが、実は該当する可能性がある」という状況に直面しています。
契約書の内容、支払条件、協議の記録など、取引全体の総点検が不可欠になっています。
違反が認定された場合には、公正取引委員会から勧告を受け、社名が公表される可能性もあります。
これは単なる法令違反にとどまらず、企業の社会的信用に直結する問題です。
高齢労働者の労災防止が「努力義務」になった意味
2026年4月からは、改正労働安全衛生法に基づき、高齢労働者の労災防止に向けた環境整備が事業者の努力義務となります。
法的な罰則は設けられていませんが、その意味は決して軽くありません。
厚生労働省のデータによれば、60歳以上の労災死傷者数は過去最多を更新し、全体の約3割を占めています。
転倒や墜落といった事故が多く、身体機能の変化に職場環境が対応できていない実態が浮かび上がっています。
これまで高齢者向けの労災対策は、企業の自主的な取り組みに委ねられてきました。
しかし、実際に対策を講じている事業所は2割程度にとどまっていたとされています。
先行企業に見る「エイジフレンドリー」という考え方
こうした中で、一部の企業はすでに高齢化を前提とした職場づくりに踏み出しています。
例えば、ダイキン工業では、無人搬送車や補助機構を導入し、身体的負担の大きい作業を減らしています。
東芝では、現場を撮影して転倒リスクを洗い出し、床や照明を改善する取り組みを進めています。
これらに共通するのは、「高齢者だから注意する」のではなく、「年齢による特性を前提に環境を設計する」という発想です。
いわゆるエイジフレンドリーな職場づくりは、定年延長や人手不足が進む中で、今後の標準になっていくと考えられます。
2つの改正に共通する企業へのメッセージ
取適法と高齢者労災対策は、一見すると別分野の改正に見えます。
しかし、その根底には共通するメッセージがあります。
それは、「これまで慣行として許容されてきた負担の押し付けを見直す」という点です。
資金繰りの負担、身体的リスク、交渉力の格差といった問題を、個人や弱い立場に委ねる時代は終わりつつあります。
法令遵守は最低限のラインであり、企業には一歩踏み込んだ対応が求められるようになっています。
結論
2026年のルール改正は、単なる規制強化ではありません。
企業に対して、「誰の負担の上に成り立っているのか」を問い直す転換点だといえます。
取引先との関係、高齢労働者との関係を見直すことは、短期的にはコスト増に見えるかもしれません。
しかし、中長期的には人材確保、取引継続、企業価値の維持につながる重要な投資でもあります。
2026年は、企業の姿勢そのものが試される年になります。
参考
・日本経済新聞「26年ルール改正 企業動く 中小取引適正化、手形払い禁止」(2026年1月6日朝刊)
・日本経済新聞「高齢者労災、東芝は転倒リスク軽減」(2026年1月6日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
