2026年度予算では、国債発行額が約40兆円規模に達する見通しとなりました。税収の上振れがあったにもかかわらず、当初想定よりも大きな財政拡張が選択されています。
物価高が続くなかでの積極財政は、多くの国民にとって歓迎されやすい政策です。しかし、重要なのは財政の規模そのものではなく、「税金をどのように返すか」という設計です。
慶應義塾大学教授の 白井さゆり 氏は、日本経済新聞の論考で、現在の経済対策について「返し方が非効率になっている」と指摘しています。本稿ではこの論考を手がかりに、積極財政の質と、これからの財政運営の課題を整理します。
国債発行拡大が抱える市場リスク
今回の国債発行規模が市場に与える影響は小さくありません。日本銀行が金融正常化を進めるなか、これまでのように日銀が大量に国債を買い支える構図は弱まりつつあります。
銀行は金利リスクを警戒して長期国債の保有を増やしにくく、海外投資家も円安リスクを考慮すると、相応に高い利回りがなければ積極的に買いにくい状況です。その結果、需給の緩みから長期金利が上昇しやすくなっています。
金利上昇は、国債費の増加だけでなく、住宅ローン金利や企業の資金調達にも影響を及ぼします。財政拡大の副作用は、決して無視できません。
見かけ上の財政改善とその限界
一方で、日本の財政が直ちに破綻リスクに直面しているわけではありません。債務残高のGDP比が低下するなど、表面的には財政指標は改善しています。
しかし、その実態はインフレによる税収の自然増に支えられたものです。所得税や消費税の税収が物価上昇によって押し上げられているだけで、構造的に歳出と歳入のバランスが改善したわけではありません。
インフレが落ち着けば、同じ構図は維持できなくなります。財政再建が進んでいるように見えるのは、一時的な現象にすぎません。
問題は「税金の返し方」にある
今回の経済対策は約21兆円規模とされ、その半分近くは、インフレで取り過ぎた税金を国民に返す性格を持っています。
しかし、返し方が本当に物価高対策として機能しているかは疑問が残ります。物価高の主因である食料品については、ほとんど直接的な対策が講じられていません。
ガソリン税の旧暫定税率廃止や地方交付税の積み増しは、一定の意味を持ちますが、食料価格の上昇に苦しむ家計に的確に届くとは限りません。
白井氏が指摘するように、食料品の消費税負担を一時的に軽減するという選択肢も、本来は正面から議論されるべきでした。制度的に可能か、期間や復元条件をどう設計するかといった検討を経ずに、別の分野に配分してしまった点に、政策の非効率さがあります。
「積極財政=生活が楽になる」とは限らない
積極財政に賛成した人の中には、自分の生活が直接的に楽になることを期待した人も少なくないでしょう。しかし、配分が広く薄くなればなるほど、家計が実感できる効果は小さくなります。
政策の評価は、予算規模ではなく、誰に、どの程度、どのタイミングで届いたのかによって行う必要があります。ピンポイントを欠いた支援は、財政負担だけを残し、満足度の低い結果に終わりがちです。
デジタル政府が財政の質を左右する
白井氏が最も強調するのが、デジタル政府の必要性です。
補助金や給付金の効果検証を行い、無駄を省くためには、所得や税のデータが連結されていなければなりません。中低所得者向けの給付付き税額控除を実現するためにも、国税データの活用は不可欠です。
「日本版DOGE(政府効率化省)」の構想も、データ基盤がなければ機能しません。デジタル庁は設置されましたが、現状では十分とは言えず、法制度の見直しやクラウド化の本格推進が求められます。
結論
積極財政そのものが問題なのではありません。問われているのは、その中身です。
インフレで集まりすぎた税金を、どの分野に、どの層に、どのような形で返すのか。その設計次第で、同じ財政規模でも効果は大きく変わります。
今後の財政運営に必要なのは、規模の議論から一歩進んだ「効率」と「検証」の視点です。デジタル政府の実現は、その前提条件となります。
税金の返し方を誤れば、国民の負担感だけが残ります。限られた財源を最大限に活かすためにも、財政政策の質がこれまで以上に問われています。
参考
・日本経済新聞「税金の返し方は効率的に」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

