日本では近年、景気回復や株価上昇が語られる一方で、経済格差の拡大が静かに進んでいます。特に注目されているのが、所得上位層における「資産効果」による急速な富の集中と、低・中所得層の長期的な所得低下です。
本稿では、日本経済新聞の記事を参考にしながら、日本の経済格差の現状とその構造的な背景、そして税制・再分配政策の課題について整理します。
上位0.01%層に集中する所得
一橋大学の森口千晶教授らの研究によると、日本の所得上位0.01%層が全体の所得に占める割合は、2023年時点で2.28%に達しました。これは、アベノミクスが始まった2012年の約1.19%から、ほぼ倍増した水準です。
この層の平均所得は、2018年から2023年の平均で約1億7,400万円と推計されています。
注目すべき点は、所得拡大の中身です。給与や事業所得など、いわゆるフロー所得だけを見ると、上位0.01%層の所得シェアはほぼ横ばいです。一方、株式や不動産の売却益といったキャピタルゲインを含めると、所得シェアは大きく拡大します。
つまり、格差拡大の主因は「働いた結果の差」ではなく、「資産を持っているかどうか」の差にあるといえます。
「持てる者」が強まる構造
この傾向は、より広い上位層にも当てはまります。
キャピタルゲインを含めた場合、2012年から2023年にかけて、上位0.1%、上位1%の所得シェアはいずれも上昇しました。一方で、上位5%や10%、20%といった層では、所得シェアは横ばいか、むしろ低下傾向にあります。
これは、株式や不動産といったリスク資産を多く保有するごく一部の層に、資産増加の果実が集中していることを示しています。
「中間層の上」に位置する人たちでさえ、資産格差の拡大から取り残されつつある点は、見過ごせない特徴です。
国際比較で見た日本の位置
国際的に見ると、日本の富裕層が極端に富を独占しているとは言い切れません。
森口氏による別の分析では、2019年時点の所得上位1%の所得シェアは、日本では8%台にとどまっています。米国の19%台と比べると低く、韓国や中国、英国、ドイツなどと比べても相対的に小さい水準です。
ただし、この点は「日本の格差が軽微である」ことを意味するわけではありません。むしろ、日本はトップ層が薄く、起業家層も少ない一方で、中間層以下の所得が長期的に低下してきた点に特徴があります。
深刻化する低・中所得層の貧困化
より深刻なのは、低・中所得層の状況です。
明治大学の**山田知明**教授らの分析によると、世帯労働所得の中央値は、1994年の約537万円から、2019年には約305万円へと大きく低下しました。
この期間、日本経済はデフレや雇用の非正規化を経験し、安定した中間層の基盤が徐々に失われてきました。
厚生労働省が公表するジニ係数も、この傾向を裏付けています。2023年時点の再分配前のジニ係数は0.5855と、調査開始以来で最も高い水準となりました。
格差拡大の本質は、「一部の富裕層が豊かになった」こと以上に、「中間層以下が貧しくなった」点にあるといえます。
税制は格差是正に機能するのか
政府は2026年度税制改正大綱で、いわゆる「1億円の壁」への対応を盛り込みました。
超高所得層において、所得が増えるほど実効税率が下がる仕組みを是正し、最低負担率を引き上げる内容です。対象となる所得水準も引き下げられ、影響を受ける人数は増える見通しです。
ただし、所得課税の強化だけで、資産格差や中間層の貧困化を食い止めることは容易ではありません。
資産把握にもとづく課税の公平性と同時に、雇用、教育、社会保障を通じた底上げ政策が不可欠です。
結論
日本の経済格差は、「富裕層が増えた社会」ではなく、「中間層が痩せ細った社会」という側面を強く持っています。
成長を促しつつ、分配をどう設計するのか。そのかじ取りは、税制だけでなく、雇用政策や社会保障制度を含めた総合的な視点が求められています。
格差の数字の背後にある構造を見失わないことが、これからの経済運営において重要です。
参考
・日本経済新聞「広がる日本の経済格差 上位0.01%層、所得2%占める」
・財務総合政策研究所 研究会資料
・厚生労働省 所得再分配調査
・森口千晶、山田知明 各氏の研究・分析資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

