アルコール使用障害は、医療や福祉の問題として語られることが多い一方で、生活全体への影響、特に「お金」と「制度」の問題として整理されることは多くありません。しかし実際には、飲酒問題は家計、税負担、社会保険、生活再建に直結します。
この最終回では、アルコール使用障害が疑われる状態から、治療や回復に向かう過程で、税や社会保障の制度がどのように関わるのかを整理します。これは特別な人の話ではなく、誰の家庭にも起こり得る現実的な論点です。
収入減少と家計への影響
飲酒問題が深刻化すると、遅刻や欠勤、業務ミスが増え、結果として配置転換や降格、失職につながることがあります。自営業やフリーランスの場合は、収入の減少がより直接的に家計を直撃します。
収入が減っても、住宅費や教育費、保険料といった固定費はすぐには下がりません。その結果、貯蓄を取り崩しながら生活を維持する状態が続き、家計の立て直しが難しくなります。飲酒問題は、健康問題であると同時に、家計リスクの問題でもあります。
税負担と申告上の注意点
収入が減少した場合、所得税や住民税の負担は自動的に軽くなるとは限りません。特に個人事業主の場合、確定申告を行わなければ、実態に合わない税負担が残ることがあります。
また、医療機関での治療が始まると、医療費の自己負担が増えるケースもあります。一定額を超えた医療費については、医療費控除や高額療養費制度の対象となる可能性がありますが、制度を知らなければ活用できません。
飲酒問題が生活を圧迫する局面では、税務や制度の手続きを後回しにしがちです。しかし、ここを放置すると、延滞税や督促といった別の問題を招くことになります。
社会保険と所得補償の仕組み
会社員の場合、病気やケガで働けなくなった際には、傷病手当金が支給される可能性があります。アルコール使用障害も、医師の判断により対象となる場合があります。
長期にわたり就労が困難な状態が続く場合には、障害年金の対象となることもあります。ただし、申請には医師の診断書や生活状況の説明が必要であり、早期から医療につながっていないと認定が難しくなる傾向があります。
自営業やフリーランスの場合、傷病手当金がないため、収入保障の仕組みが弱く、問題が表面化しやすい点も見逃せません。
生活保護と「最後の安全網」
収入が途絶え、貯蓄も尽きた場合、生活保護は最後の安全網として位置づけられています。飲酒問題があるからといって、制度の対象外になるわけではありません。
ただし、生活保護を受けながら治療や回復に取り組むためには、医療機関や支援機関との連携が欠かせません。生活保護は「生活を立て直すための制度」であり、回復と就労再開を前提とした支援と組み合わせて活用されるべきものです。
早期対応が再建可能性を左右する
ここまで見てきたように、税や社会保障の制度は、飲酒問題が深刻化した後でも一定の支えになります。しかし、制度は「早く使うほど効果が高い」という共通点があります。
医療につながるのが早ければ、就労を維持したまま治療できる可能性が高まります。家計が破綻する前に制度を理解していれば、生活再建の選択肢も広がります。問題を隠し、先送りすることが、最も大きなリスクになります。
結論
アルコール使用障害は、本人の健康問題であると同時に、家計・税・社会保障を巻き込む生活問題です。300万人という数字の背後には、制度を知らずに苦しんでいる家庭や、支援につながれずに生活が崩れていく人たちがいます。
税や社会保障の制度は、問題が起きた人を罰するためのものではありません。生活を立て直し、再び社会とつながるための仕組みです。だからこそ、飲酒問題を「自己責任」で終わらせず、制度と生活をつなげて考える視点が求められています。
このシリーズが、誰かにとって「相談や支援につながるきっかけ」になることを願っています。
参考
・日本経済新聞「アルコール障害疑い300万人 24年、18年調査と同水準」
・国立病院機構久里浜医療センター アルコール使用障害に関する調査結果
・アルコール健康障害対策基本法
・厚生労働省 医療費・社会保障制度に関する資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

