アルコール使用障害は、本人の健康問題として語られることが多い疾患です。しかし実際には、影響は本人の内側だけにとどまりません。家庭、職場、人間関係、経済状況など、生活のあらゆる場面に波及していきます。
今回の調査で、アルコール使用障害が疑われる人が約300万人にのぼることが示されました。この数字の背後には、同じ数だけ、あるいはそれ以上の「巻き込まれている家族」や「影響を受けている職場」が存在していると考える必要があります。
家族が最初に抱え込む負担
飲酒量が増え、生活に支障が出始めると、最初に変化に気づくのは家族であることが多くあります。帰宅が遅くなる、約束を守らなくなる、感情の起伏が激しくなるなど、小さな違和感が積み重なっていきます。
しかし、家族はそれをすぐに「病気」とは捉えません。「仕事が忙しいだけ」「年齢のせい」「自分が我慢すれば済む」と考え、問題を内側に抱え込みやすくなります。その結果、配偶者や子どもが精神的・身体的な負担を長期にわたって背負う構造が生まれます。
特に、家計管理や介護、子育てといった役割を担う家族ほど、飲酒問題を外部に相談しづらく、孤立しやすい傾向があります。
家庭内トラブルが連鎖する仕組み
アルコール使用障害が進行すると、言葉の暴力や金銭トラブル、場合によっては身体的な暴力が発生することもあります。これらは突発的な問題に見えますが、多くは長期間の飲酒習慣の延長線上で起きています。
家族は「刺激しないようにする」「怒らせないようにする」と行動を変え、生活全体が飲酒中心に回り始めます。結果として、家族の側が疲弊し、心身の不調を訴えるケースも少なくありません。
この段階になると、問題は「本人の飲酒」ではなく、「家族全体の生活問題」へと変質しています。
職場で表面化するもう一つの顔
家庭と並んで影響を受けるのが職場です。飲酒による体調不良や集中力低下は、遅刻や欠勤、業務ミスとして表面化します。本人は必死に隠そうとしますが、評価の低下や配置転換、最悪の場合は解雇につながることもあります。
職場側も対応に苦慮します。私生活の問題にどこまで踏み込んでよいのか判断が難しく、結果として注意や指導だけが繰り返され、根本的な支援につながらないケースが少なくありません。
本人は「職場に迷惑をかけている」という罪悪感から、さらに飲酒に依存するという悪循環に陥りやすくなります。
「隠すこと」が悪化を招く
家族も職場も共通しているのは、「問題を外に出さない」姿勢が、結果的に悪化を招いてしまう点です。飲酒問題は恥ずかしいこと、家庭内で解決すべきこと、本人の意思の問題と捉えられがちです。
しかし、隠せば隠すほど、支援につながるタイミングは遅れ、影響範囲は広がります。本人が医療や相談につながる前に、家族や職場が限界を迎えてしまうケースも少なくありません。
結論
アルコール使用障害は、本人だけの問題ではありません。家族の生活、職場での信用、経済基盤など、社会生活全体を揺るがす問題です。
にもかかわらず、現実には「家の中の問題」「個人の責任」として処理され、周囲が静かに耐え続けてしまう構造が残っています。300万人という数字が示しているのは、支援が届いていない人の多さだけでなく、声を上げられずにいる周囲の存在でもあります。
次回は、アルコール使用障害が「治療できる病気」であるにもかかわらず、なぜ医療や支援制度につながりにくいのかについて整理していきます。
参考
・日本経済新聞「アルコール障害疑い300万人 24年、18年調査と同水準」
・国立病院機構久里浜医療センター アルコール使用障害に関する調査結果
・アルコール健康障害対策基本法
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
