「年収の壁」という言葉は広く知られるようになりましたが、その中身は一つではありません。
税金の壁、社会保険の壁、扶養の壁が混在し、どの壁がどの制度に基づくものなのか分かりにくいのが実情です。
2026年度にかけて、所得税・社会保険の双方で制度改正が進み、「壁」の意味合いも変わりつつあります。
本記事では、税と社会保険を横断して年収の壁を整理し、制度全体を俯瞰します。
年収の壁は三つの制度に分かれる
年収の壁は、大きく次の三つに分けて考える必要があります。
・所得税に関する壁
・住民税に関する壁
・社会保険(扶養・加入)に関する壁
それぞれの制度は目的も仕組みも異なり、同じ年収でも影響が変わります。
税の壁① 所得税の壁
所得税の壁とは、所得税が課税され始める年収ラインを指します。
2026年度税制改正では、いわゆる「160万円の壁」が整理され、さらに178万円への引き上げが盛り込まれました。
この壁を超えると所得税が発生しますが、超えた部分すべてが税金になるわけではありません。
税額は段階的に増えるため、「急に手取りが大きく減る」という性質の壁ではありません。
税の壁② 住民税の壁
住民税は、所得税よりも低い水準で課税が始まります。
住民税の壁は自治体ごとに多少の差はありますが、概ね100万円前後が目安です。
こちらも所得税と同様に、超えたからといって急激に手取りが減る構造ではありません。
税の壁は「なだらかな壁」である点が重要です。
社会保険の壁① 106万円の壁
社会保険の壁は、税の壁と性質が大きく異なります。
従業員51人以上の企業で、週20時間以上働く場合、一定の要件を満たすと厚生年金・健康保険への加入が必要になります。
かつては年収106万円以上という賃金要件がありましたが、年金制度改革により撤廃が決まっています。
今後は、企業規模要件も段階的に廃止される予定です。
この壁の特徴は、保険料負担が一気に発生する点にあります。
社会保険の壁② 130万円の壁
130万円の壁は、被扶養者認定に関わる基準です。
企業規模にかかわらず、年収が130万円を超えると原則として扶養から外れます。
2026年度からは、給与収入のみの場合、残業代を含めずに年収判定を行う仕組みへと見直されます。
これにより、一時的な残業による扶養外れのリスクは軽減されます。
ただし、不動産収入や配当収入がある場合は、引き続き合算判定となります。
税の壁と社会保険の壁は性質が違う
税の壁と社会保険の壁が混乱を招く最大の理由は、その性質の違いにあります。
税の壁は、超えた分にだけ課税される「累進型」の仕組みです。
一方、社会保険の壁は、加入した瞬間から保険料負担が発生する「段差型」の仕組みです。
この段差が、いわゆる「働き損」を感じさせる要因となってきました。
なぜ政府は壁を一気に無くさないのか
年収の壁をすべて撤廃すれば分かりやすくなりますが、現実には簡単ではありません。
社会保険料は将来の給付と結びついており、単なる負担増ではなく権利の裏返しでもあります。
そのため、政府は段階的な加入拡大と、移行期の調整策を組み合わせています。
130万円の壁見直しは、その調整策の一つです。
働き方別に見る考え方の整理
今後は、「壁を超えるかどうか」ではなく、次の視点が重要になります。
・短時間就労を続けるのか
・社会保険に加入して働くのか
・将来の年金給付をどう考えるのか
制度は「どちらが得か」を決めるものではなく、選択肢を提示する方向へ移行しています。
今後の制度の方向性
税の壁は緩和・引き上げが進み、社会保険は加入拡大が進行しています。
その結果、「壁を避ける働き方」から「制度を前提に選ぶ働き方」へと考え方が変わっていきます。
第3号被保険者制度についても、維持か廃止かの二択ではなく、縮小と再設計が現実的な路線となっています。
結論
年収の壁は一枚の壁ではなく、複数の制度が重なって生じてきた構造です。
税と社会保険を切り分けて理解することで、必要以上に壁を恐れる必要はなくなります。
今後は、制度改正を前提に、自身の働き方と将来設計をどう組み立てるかが重要になります。
「壁を超えない」ことよりも、「制度を理解して選ぶ」ことが、これからの時代の基本姿勢といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「130万円の壁」残業代含めず(2026年1月3日朝刊)
・厚生労働省 年金制度改革法 関連資料
・2026年度税制改正大綱
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

