2026年度から始まる「130万円の壁」の見直しは、パート労働者の働き控えを緩和する重要な制度改正です。
しかし、この動きは単なる年収判定の技術的な変更にとどまりません。その背景には、長年議論されてきた「第3号被保険者制度」の将来像があります。
本記事では、第3号被保険者制度の成り立ちと現状を整理したうえで、今回の130万円の壁見直しが持つ意味、そして今後の制度の方向性について考察します。
第3号被保険者制度とは
第3号被保険者制度とは、会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養される配偶者が、自身で保険料を負担することなく国民年金に加入できる仕組みです。
典型例は、配偶者の扶養内で働くパート主婦(主夫)です。
この制度は、専業主婦世帯が標準的であった時代に設計されました。
世帯単位で生計を支えるという考え方のもと、配偶者の無償労働や家事・育児を社会的に評価する役割を果たしてきました。
制度が抱える構造的な課題
一方で、第3号被保険者制度は長年にわたり課題を指摘されてきました。
第一に、「働き控え」を誘発する構造です。
年収106万円や130万円を超えると社会保険料の負担が生じるため、就労時間を意図的に抑える行動が広がりました。
第二に、制度間の公平性の問題です。
同じ年金を受け取るにもかかわらず、保険料を負担する人と負担しない人が存在する点について、不公平感が指摘されています。
第三に、ライフスタイルの多様化への対応です。
共働き世帯の増加や非正規雇用の拡大により、制度設計の前提となっていた家族モデルが現実と乖離しています。
これまで進められてきた見直し
政府は、第3号被保険者制度を一気に廃止するのではなく、段階的な見直しを進めてきました。
代表的なのが、厚生年金への加入対象の拡大です。
企業規模要件は、従業員501人以上から101人以上、さらに51人以上へと引き下げられました。
また、2025年に成立した年金制度改革法では、年収106万円以上とする賃金要件の撤廃が決定されています。
今後は企業規模要件も段階的に撤廃され、2035年にはすべての企業が対象となる予定です。
今回の130万円の壁見直しの位置づけ
今回の130万円の壁の見直しは、第3号被保険者制度を「延命」するための措置ではありません。
むしろ、急激な制度変更による混乱を避けながら、就労促進と制度移行を円滑に進めるための調整策といえます。
残業代を年収判定から除外することで、短時間労働者が安心して働ける環境を整えつつ、将来的な社会保険加入拡大への橋渡しを行う役割を担っています。
制度廃止論と慎重論
第3号被保険者制度については、廃止を求める声も根強くあります。
就業を中立化し、個人単位で社会保険を負担する仕組みへ移行すべきだという考え方です。
一方で、慎重論も存在します。
配偶者の介護や育児を担う人にとって、急激な負担増は生活の不安定化につながりかねません。
年金制度改革法では、「第3号被保険者の実情に関する調査研究を行い、そのあり方について検討する」と明記されました。
これは、拙速な廃止ではなく、実態を踏まえた段階的な見直しを示唆しています。
政治的な動きと今後の焦点
近年は、社会保障制度を「就業促進型」へ転換すべきだという主張が強まっています。
一部政党は、第3号被保険者制度の見直しを明確に掲げ、連立政権合意にも盛り込まれました。
今後の焦点は次の点に集約されます。
・第3号被保険者制度をどの時点でどの程度縮小するのか
・低所得層やケア労働を担う人への配慮をどう設計するのか
・税制との整合性をどこまで取るのか
これらは年金だけでなく、家族政策や労働政策とも密接に関係します。
結論
第3号被保険者制度は、すぐに廃止される制度ではありません。
しかし、現行の形のまま存続し続けるとも考えにくい状況にあります。
130万円の壁の見直しは、その移行期における現実的な対応策です。
今後は、働き方の選択が年金制度によって歪められない仕組みへ、徐々に舵が切られていくと考えられます。
制度の変化を前提に、自身の働き方と社会保障の関係を見直すことが、これからの時代には欠かせません。
参考
・日本経済新聞「130万円の壁」残業代含めず(2026年1月3日朝刊)
・厚生労働省 年金制度改革法 関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
