長生きリスクをどう分散するか― 終身と有期をどう組み合わせるか ―

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老後資金の設計において、近年とくに重要性を増しているのが「長生きリスク」です。
医療の進歩や生活環境の改善により、平均寿命は延び続けています。一方で、老後資金が何歳まで必要になるのかは誰にも分かりません。

社長や個人事業主の場合、役員退職金や新NISA、iDeCoなどを自ら組み合わせて老後資金を設計する必要があります。その際に避けて通れないのが、「終身で続く収入」と「期限付きの資金」をどう分けて考えるかという視点です。
本稿では、長生きリスクを分散するための考え方として、終身と有期の資金の役割分担を整理します。


長生きリスクとは何か

長生きリスクとは、老後資金が想定よりも早く尽きてしまうリスクを指します。
老後資金の議論では、「いくら必要か」が注目されがちですが、本質的な問題は「いつまで必要か」です。

老後生活は、働いていた頃と異なり、収入が限定されます。そのため、資金が尽きる時期を正確に予測できないこと自体がリスクになります。
この不確実性にどう備えるかが、老後資金設計の核心です。


終身型の資金が果たす役割

終身型の資金とは、生存している限り支給される収入や給付を指します。代表例が公的年金です。
終身型の最大の利点は、「長生きしても枯渇しない」点にあります。

社長や個人事業主の場合、公的年金の水準は会社員より低くなりがちですが、それでも終身で受け取れる収入として重要な役割を果たします。
生活費のうち、最低限必要な部分を終身型でカバーできれば、長生きリスクは大きく軽減されます。


有期型の資金の特徴

有期型の資金とは、一定期間または一定金額で使い切ることを前提とした資金です。
役員退職金、新NISA、iDeCoの一部、一時金として受け取る資産などがこれに該当します。

有期型の資金は、自由度が高く、使い道を柔軟に決められる反面、計画を誤ると早期に枯渇する可能性があります。
そのため、有期型の資金を老後生活のすべてに充てる設計は、長生きリスクを高める要因となります。


終身と有期を分けて考える理由

老後資金を設計する際は、「終身で必要な支出」と「一定期間で終わる支出」を分けて考えることが重要です。
たとえば、日常生活費や医療費の基本部分は終身で発生します。一方で、退職直後の旅行や住環境の整備などは有期的な支出です。

このように支出を分解すると、終身型の資金で最低限の生活を支え、有期型の資金で生活の質を調整するという構造が見えてきます。
この構造こそが、長生きリスクを分散する基本形です。


新NISAは「調整役」として使う

新NISAは、終身型でも純粋な有期型でもありません。
取り崩す時期や金額を自分で決められる点で、老後資金の「調整役」として機能します。

たとえば、退職直後は新NISAを取り崩して生活費を補い、公的年金の受給開始後は取り崩しペースを落とすといった使い方が考えられます。
また、長生きした場合には、新NISAで残しておいた資産を後半の生活費に充てることもできます。


社長・個人事業主が陥りやすい誤解

社長・個人事業主に多いのが、「退職金があるから大丈夫」という発想です。
役員退職金は大きな金額になることがありますが、一時金である以上、有期型の資金です。

退職金を生活費の柱にしてしまうと、想定以上に長生きした場合に資金が不足します。
終身型の収入とどう組み合わせるかを考えずに退職金額だけを見るのは、長生きリスクを見誤る典型例といえます。


実務的な設計の考え方

実務的には、次のような役割分担を意識すると整理しやすくなります。
まず、最低限の生活費を終身型の収入でカバーすることを目指します。
次に、有期型の資金で退職直後から数十年分の生活の質を補完します。
そして、新NISAを使って、取り崩し時期と金額を柔軟に調整します。

このように設計すれば、「早く亡くなるリスク」と「長生きするリスク」の双方に備えることができます。


結論

長生きリスクに備えるためには、老後資金を一つの塊として考えるのではなく、終身型と有期型に分解して設計することが重要です。
終身型は生活の土台、有期型は生活の幅を担います。

社長・個人事業主にとって、新NISAはこの二つをつなぐ調整役として大きな意味を持ちます。
制度の有利不利ではなく、資金の性格に着目して組み合わせることが、長生き時代の現実的な老後資金戦略といえるでしょう。


参考

・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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