<シリーズ第5回(最終回)>名義預金を指摘されたらどうするか──相続税調査での対応と考え方

FP
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これまでの回では、名義預金の基本的な考え方、税務署の視点、判断の分かれ目、そして贈与契約書や贈与税申告の限界について整理してきました。
理屈として理解できていても、実際に相続税調査で名義預金を指摘された場合、どう対応すべきかは別の問題です。

名義預金の指摘は、相続税調査の中でも特に精神的な負担が大きい場面です。
第5回では、名義預金を指摘されたときに、何を確認し、どう判断し、どのように対応すべきかを実務の視点で整理します。

指摘されたときにまず確認すべきこと

名義預金を指摘された場合、最初にすべきことは感情的に反論することではありません。
まず、その預金について、事実関係を冷静に整理する必要があります。

確認すべき主なポイントは次のとおりです。

  • その預金の原資は誰の資金か
  • 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が管理していたか
  • 引き出しや解約の判断は誰がしていたか
  • 名義人は預金を自分の財産と認識していたか
  • 実際に名義人のために使われたことがあるか

これらを時系列で整理し、説明できる状態にすることが重要です。

反論できるケースと難しいケース

名義預金と指摘された場合でも、すべてが修正申告に直結するわけではありません。
実態として、贈与が成立していたと説明できる材料があれば、反論の余地はあります。

例えば、名義人が預金の存在を明確に認識し、管理や使途の判断をしていた場合には、名義預金ではないと主張する余地があります。
一方で、通帳や印鑑を被相続人が一括管理し、名義人が預金の存在すら把握していなかった場合には、反論は難しくなります。

重要なのは、「理屈としておかしい」と感じるかどうかではなく、客観的に説明できる事実があるかどうかです。

修正申告をどう考えるか

名義預金の指摘を受けた場合、修正申告をするかどうかは大きな判断になります。
この判断では、次の点を総合的に考える必要があります。

  • 反論に耐えうる事実関係があるか
  • 争った場合の時間的・精神的負担
  • 追徴税額と加算税の影響
  • 調査全体への影響

明確に名義預金と評価される実態がある場合には、早期に修正申告を行う方が結果として負担が軽くなることもあります。
一方で、実態として贈与が成立していると説明できる場合には、安易に修正申告を選択すべきではありません。

争う場合の現実的なハードル

名義預金を巡る争いは、最終的には実態認定の問題になります。
裁判例を見ても、形式的な書類よりも、管理・支配の実態が重視されています。

そのため、争う場合には、通帳の管理状況や名義人の認識を裏付ける具体的な説明が不可欠です。
「贈与契約書がある」「贈与税を申告している」といった点だけでは、決定打にならないことも少なくありません。

争うこと自体が悪いわけではありませんが、現実的な見通しを踏まえた判断が求められます。

税理士に相談するタイミング

名義預金を指摘された場合、できるだけ早い段階で税理士に相談することが重要です。
調査の初期対応での説明や資料の出し方によって、その後の流れが大きく変わることがあります。

特に、相続税調査や名義預金の実務経験がある税理士であれば、

  • どこまで主張できるか
  • どこで線を引くべきか
    といった現実的な判断をサポートすることができます。

結論

名義預金を指摘されたときに最も大切なのは、冷静に事実を整理し、実態に即した判断をすることです。
感情的な反論や、形式だけに頼った説明は、かえって状況を悪化させることがあります。

名義預金問題は、相続税調査において避けて通れないテーマです。
しかし、その多くは、日常の管理や認識の積み重ねによって結果が左右されます。

本シリーズを通じて、名義預金の本質が「名義」ではなく「実態」にあることを改めて確認できたのではないでしょうか。
制度を正しく理解し、後悔のない相続につなげるための一助になれば幸いです。

参考

・税のしるべ「第69回/名義預金」
・相続税調査における名義預金に関する裁判例


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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