<シリーズ第3回>名義預金と認定されるケース・されないケース──相続税調査における判断の分かれ目

FP
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前回は、相続税調査で税務署が名義預金をどのように把握し、どこを確認しているのかを見てきました。
そこで浮かび上がってくるのが、「では、どこからが名義預金なのか」「何をしていれば贈与として認められるのか」という疑問です。

名義預金の判断は白黒がはっきりしているようで、実際にはグレーゾーンが多く存在します。
第3回では、相続税調査や裁判例で問題になりやすいケースを整理し、名義預金と認定されやすい例、されにくい例の分かれ目を確認します。

名義預金と認定されやすい典型例

まず、名義預金と判断される可能性が高いケースを整理します。

典型的なのは、被相続人が子や孫名義の口座を開設し、その通帳や印鑑、キャッシュカードをすべて自分で保管しているケースです。
毎年110万円ずつ入金していても、引き出しや解約の判断を被相続人が行っていれば、その預金は実質的に被相続人の管理下にあったと評価されます。

また、名義人本人がその口座の存在や残高をほとんど認識していない場合も、贈与が成立していないと判断されやすくなります。
「親がやってくれていた」「詳しいことは分からない」という説明は、名義預金を裏付ける方向に働くことが少なくありません。

贈与として認められにくい管理の特徴

名義預金と認定されるケースでは、次のような共通点が見られます。

  • 被相続人が通帳・印鑑を一括管理している
  • 名義人が引き出しや運用に関与していない
  • 名義人の生活費や資産形成に使われていない
  • 被相続人の必要に応じて自由に動かされている

これらが重なるほど、その預金は名義だけが借りられたものと評価されやすくなります。

名義預金とされにくいケース

一方で、同じ110万円贈与であっても、名義預金とされにくいケースも存在します。

例えば、子や孫が管理している通帳に対して、被相続人が資金を振り込み、その後の管理や使途については名義人が判断している場合です。
被相続人が「使い道に口を出さない」「自由に使ってよい」としていれば、その預金は名義人の財産として扱われてきたと説明しやすくなります。

また、名義人が預金の存在を明確に認識し、自分の資産として把握していることも重要です。
贈与であることを理解し、その資金をどう使うかを考えている状態は、贈与成立を裏付ける要素になります。

未成年者名義の預金はどう見られるか

孫など未成年者名義の預金については、親権者が管理しているケースが多くあります。
この点について、「親が管理しているから名義預金になるのではないか」と心配されることもあります。

未成年者の場合、親権者が管理すること自体は不自然ではありません。
重要なのは、その管理が未成年者の財産として行われているのか、それとも被相続人の意思で自由に動かされているのかという点です。

例えば、将来の学費や生活費に充てる目的で管理され、実際にそのために使われている場合には、贈与としての実態が認められやすくなります。
一方で、形式的に親権者が管理しているだけで、実際には被相続人の指示通りに動かされている場合には、名義預金と判断されるリスクが高まります。

「管理している」とはどういう状態か

名義預金の判断で頻繁に出てくる言葉が「管理」です。
ここでいう管理とは、単に通帳を持っているという意味ではありません。

誰が引き出しの判断をしていたのか、誰の意思で預金が動かされていたのかという点が問われます。
形式的に名義人や親権者が通帳を持っていても、実質的な判断権が被相続人にあれば、管理していたとは評価されにくくなります。

結論

名義預金かどうかの判断は、特定の書類や形式だけで決まるものではありません。
預金の管理状況、名義人の認識、資金の使われ方といった実態の積み重ねによって判断されます。

110万円贈与をしていれば安心という発想ではなく、その預金が誰の財産として扱われてきたのかを説明できるかどうかが重要です。
名義預金と認定されるか否かの分かれ目は、日常の運用の中にあります。

次回は、名義預金対策として語られることの多い「贈与契約書」や「111万円贈与+申告」の実務的な意味を整理します。

参考

・税のしるべ「第69回/名義預金」
・相続税調査における名義預金に関する裁判例


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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