ここまで、相続税を巡る制度の変化、資産構成の変化、再分配や社会保障との関係、そして今後の見通しを見てきました。
これらを通じて浮かび上がるのは、相続税がもはや「一部の資産家だけの税金」ではないという現実です。
大相続時代とは、誰もが相続税と無縁ではいられない時代です。
最終回では、相続税をどう受け止め、どのように向き合っていくべきかを、生活者の視点から整理します。
相続税は「突然やってくる問題」
相続税の最大の特徴は、準備をしていないと突然やってくる点にあります。
所得税や住民税は毎年支払うため、負担感はあっても予測可能です。しかし相続税は、人生で一度、しかも予期せぬタイミングで発生します。
多くの人は、「その時が来てから考えればよい」と思いがちです。
しかし、相続が発生してからでは、選択肢は大きく限られます。相続税が問題になるかどうかは、事前にしか判断できません。
「うちは大丈夫」という思い込み
相続税を他人事にしてしまう最大の理由は、「うちは大した財産がない」という思い込みです。
しかし、これまで見てきたように、相続税の課税対象は、制度改正や資産価格の上昇によって広がっています。
自宅不動産と長年の預貯金、それに少しの金融資産があるだけで、基礎控除を超えるケースは珍しくありません。
特別にぜいたくをしていなくても、相続税の対象になることは十分にあり得ます。
重要なのは、「お金持ちかどうか」ではなく、「評価額としてどう見えるか」です。
相続税を巡る感情と現実
相続税には、強い感情が伴います。
家族を失った直後に納税の話が出ること、親の努力の結晶に税金がかかること、これらに納得しにくいのは自然なことです。
一方で、社会全体を見ると、相続税は再分配や社会保障を支える役割を担っています。
感情と制度の目的は、必ずしも一致しません。このズレをどう受け止めるかが、大相続時代を生きるうえでの一つの課題です。
節税よりも「理解」が大切になる時代
相続税対策というと、節税の話に目が向きがちです。
しかし、制度改正を重ねる中で、短期的な節税テクニックは通用しにくくなっています。
これから重要になるのは、「制度を理解すること」です。
自分の資産がどのように評価されるのか、相続人は誰になるのか、どの時点で何が問題になり得るのか。これらを把握するだけでも、相続に対する不安は大きく減ります。
理解は、最も確実で、制度改正にも左右されにくい備えです。
相続は「残す側」と「受け取る側」の問題
相続は、残す側だけの問題ではありません。
受け取る側にとっても、相続税は現実的な負担になります。
特に、相続財産の大半が不動産で、納税資金が不足するケースでは、生活や事業に影響が出ることがあります。
相続税を巡る問題は、家族関係にも影を落としかねません。
相続税を他人事にしないということは、自分のためだけでなく、次の世代のためでもあります。
「備える」とは何をすることか
相続に備えると言っても、難しいことをする必要はありません。
まずは、財産の全体像を把握することです。不動産、預貯金、金融資産、負債を整理し、「何があるのか」を見える形にします。
次に、家族構成を確認します。
配偶者や子ども、その他の相続人が誰になるのかを把握するだけでも、将来のイメージは大きく変わります。
これらは、節税以前の、最も基本的で重要な準備です。
大相続時代に求められる姿勢
大相続時代とは、「特別な人だけが悩む時代」ではありません。
多くの人が、制度の変化の中で、相続税と向き合うことになります。
必要なのは、不安に振り回されることでも、極端な対策に走ることでもありません。
相続税を社会の仕組みの一部として理解し、自分の状況を冷静に見つめる姿勢です。
結論
相続税は、これからの時代、ますます身近な存在になります。
それを「重い税金」として遠ざけるのか、「避けられない制度」として理解するのかで、相続への向き合い方は大きく変わります。
大相続時代をどう生きるか。その答えは、特別な知識や対策ではなく、「他人事にしないこと」にあります。
制度を知り、自分の立ち位置を知ること。それが、相続税と向き合う最初で最大の一歩です。
参考
・日本経済新聞「大相続時代、広がる課税の裾野」(2025年12月16日朝刊)
・日本経済新聞「節税巡りいたちごっこ」(2025年12月16日朝刊)
・国税庁 相続税統計
・財務省 税制調査会資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

