節税と課税強化のいたちごっこ――なぜ相続税対策は封じられていくのか

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

相続税の話題になると、「節税対策」という言葉を耳にする機会が増えます。
書籍やインターネットには、相続税を減らすためのさまざまな方法が紹介されていますが、実際にはそれらの多くが、時間の経過とともに使いにくくなってきました。

相続税の世界では、節税と課税強化のいたちごっこが長く続いています。
なぜ、国は次々と対策を封じるのか。そして、そこから何を読み取るべきなのでしょうか。

相続税は「制度の隙間」を突かれやすい

相続税は、財産の評価を基に課税する仕組みです。
評価には一定のルールがありますが、現実の資産は多様で、完全に公平な評価は簡単ではありません。

このため、制度と実態の差に目をつけた節税策が生まれやすくなります。
合法であっても、制度の趣旨から外れた使い方が広がれば、結果として税負担の公平性が損なわれます。

国が対応に乗り出すのは、こうした状況を是正するためです。

タワーマンション節税とは何だったのか

近年、特に注目を集めたのが「タワーマンション節税」です。
高層階のマンションは市場価格が高い一方、相続税評価額がそれほど高くならないケースがありました。

この評価差を利用し、高額なマンションを購入することで、見かけ上の相続財産評価を大きく下げる手法が広まりました。
資産規模が大きいほど効果が高く、一部では行き過ぎた利用も見られました。

結果として、同じ価値の財産でも、保有の形によって相続税負担が大きく異なる状況が生じました。

2024年のルール見直しの意味

この問題に対し、国は2024年に評価ルールの見直しを行いました。
マンションの階数や専有面積などを考慮し、実勢価格との乖離を縮める仕組みが導入されています。

この改正は、「節税を全面的に否定する」ものではありません。
しかし、評価差を過度に利用した節税には、明確に歯止めをかける姿勢を示したものです。

ここから読み取れるのは、国が「形式的な合法性」よりも「実質的な公平性」を重視し始めているという点です。

次に注目された小口化不動産商品

タワーマンション節税が難しくなると、別の手法が注目されました。
それが、不動産を小口化した金融商品です。

複数の投資家が一つの不動産を共有する形にすることで、評価を下げやすくする仕組みですが、実態としては節税目的が強い商品もありました。
これに対しても、政府・与党は税制改正で対応を進めています。

こうした流れから分かるのは、特定の手法だけを見ていても意味がないということです。
制度の趣旨から外れた使い方は、いずれ修正される可能性が高いと言えます。

なぜ「後出し改正」が続くのか

相続税の改正は、「後出し」と感じられることが少なくありません。
しかし、制度を作る側から見れば、実際にどのような節税行動が広がるかは、使われてみなければ分からない部分があります。

想定を超える使われ方が広がれば、修正せざるを得ません。
これは相続税に限らず、あらゆる税制に共通する現象です。

重要なのは、「一度成功した節税策が、将来も通用するとは限らない」という点です。

節税と脱税の境界線

節税は、法律の範囲内で税負担を抑える行為です。
一方で、制度の趣旨を無視した過度な節税は、税務当局から問題視されやすくなります。

形式的には合法でも、実質的に不自然な取引は、調査の対象になりやすいのが現実です。
特に相続税は、申告後に調査が入る可能性が高い税目です。

節税と脱税の線引きは、必ずしも明確ではありません。
だからこそ、安易な手法に飛びつくことには注意が必要です。

「節税ありき」からの転換

これからの相続税対策で重要なのは、「節税ありき」の発想から離れることです。
制度の隙間を探すよりも、全体像を理解し、無理のない範囲で備える姿勢が求められています。

例えば、相続人構成の確認、財産の棚卸し、納税資金の準備など、地道な対策の方が長期的には有効です。
こうした対応は、制度改正の影響を受けにくいという利点もあります。

結論

相続税を巡る節税と課税強化のいたちごっこは、今後も続くと考えられます。
しかし、その方向性は明確です。国は、過度な節税を封じ、負担の公平性を高めようとしています。

一時的なテクニックに頼るより、制度の考え方を理解し、正面から向き合うことが、結果的に安心につながります。
大相続時代においては、「知らないこと」が最大のリスクになりつつあります。

参考

・日本経済新聞「節税巡りいたちごっこ」(2025年12月16日朝刊)
・日本経済新聞「大相続時代、広がる課税の裾野」(2025年12月16日朝刊)
・財務省 税制改正資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました