訪問看護の「適正」と「過剰」の境界線 現場で起きていることを読み解く

FP
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訪問看護の報酬見直しが議論される背景には、「どこからが必要なケアで、どこからが過剰なのか」という判断の難しさがあります。
訪問看護は利用者の状態に応じて柔軟に対応できる一方で、利用回数や訪問時間が事業所の裁量に委ねられる場面も少なくありません。

本稿では、訪問看護の現場で起きている実態を整理し、「適正なケア」と「過剰提供」の境界線をどのように見定めるのかについて解説します。

1.訪問看護は「状態が変わりやすい人」にとって不可欠なサービス

訪問看護では、以下のような医療処置や観察が行われます。

  • 体調管理、バイタルチェック
  • 服薬管理
  • 点滴や注射
  • 皮膚トラブルのケア
  • 終末期の疼痛コントロール
  • 精神面のサポート

特に以下の方々では、訪問回数が多くなるのは自然なことです。

  • 末期がん
  • 神経難病
  • 人工呼吸器管理
  • 認知症により急変リスクの高い方

このように、訪問看護の多くは高度な医療的必要性に基づいており、決して「過剰サービス」ではありません。


2.では、なぜ“過剰提供”が問題になるのか?

① 非医療的な内容で訪問回数が増えているケース

近年、以下のような本来の医療目的から逸脱した訪問が問題視されています。

  • バイタルも安定しているのに日課のように訪問
  • 必要性が不透明な1日2回・3回訪問
  • 実質的に「見守り」や「話し相手」に近いサービス

医療・介護の専門職による訪問は本来の目的を明確にしなければ、制度の趣旨と乖離してしまいます。

② 短時間訪問が連続して行われるケース

5〜10分程度で終了するような内容を、1日に複数回訪問するケースも報告されています。

  • 「服薬確認だけ」の短時間訪問
  • 「見守り目的」の複数回訪問
  • 短時間の処置を複数回に分ける

このような訪問は、医療の必要性と訪問回数の整合性が問われます。

③ 同一建物での大量訪問

一つのマンションや高齢者住宅に多数の利用者が集まると、訪問看護ステーション側は少ない移動で効率的に訪問できます。

効率化はよいことですが、現場ではこんな問題も生じます。

  • 必要性より「訪問しやすさ」で回数が増える
  • 状態が安定していても訪問を続ける
  • 住宅側と事業所側の連携で利用者が“囲い込まれる”

このような構造が「過剰提供」につながりやすいと指摘されています。


3.適正なケアの基準とは何か?

訪問看護では、次の3点が“適正なサービスかどうか”を判断する基準となります。

■ ① 医師の指示書に基づく必要性

訪問頻度や内容は、医師が利用者の状態を評価した上で決まります。
指示書と訪問内容の整合性が重要です。

■ ② 利用者の状態変化に基づく合理性

  • 体調が不安定
  • 急変リスクあり
  • 医療的ケアが必要
    このようなケースでは訪問頻度が増えても適正といえます。

■ ③ 訪問目的と内容が明確であること

  • 何を目的に訪問するのか
  • なぜその回数が必要なのか
  • どのような医療的効果があるのか

これらが説明できるかどうかが、適正か過剰かを判断する鍵になります。


4.現場の訪問看護師が抱える難しさ

訪問看護師は、利用者の状態を見ながら必要な支援を判断する責任を負っていますが、その一方で事業所の経営方針が影響する場面もあります。

■ 現場でよくある葛藤

  • 利用者の希望と医療的必要性のバランス
  • 家族不在で見守りニーズが高いケース
  • 事業所から「訪問回数を増やしてほしい」と言われる場面
  • 医師の指示が曖昧で判断に迷うケース

現場には「必要だけれど制度上は認められない」逆のケースも多く、単純に“過剰=悪”とは言いきれません。


5.制度改革の焦点:過剰を抑えつつ質を落とさない

2026年度の診療報酬見直しでは、

  • 同一建物訪問の区分細分化
  • 短時間・高頻度の新報酬区分
  • 医療保険の利用要件の明確化

などが検討されています。

しかし、注意すべき点があります。

➡ ルールを厳しくしすぎると、本当に必要な人がサービスを受けにくくなる
➡ 報酬下げが進むと訪問看護事業所の経営が成り立たなくなる
➡ 看護師不足の中、現場の負担が増える可能性

適正化は必要ですが、「過剰」と「必要」をどう見分けるかが最大の課題となります。


結論

訪問看護の「過剰提供」問題は、現場の看護師や事業所の姿勢だけでなく、制度の構造、利用者の生活背景、高齢者住宅の仕組みが複雑に絡み合って生じています。

適正な訪問看護とは、
利用者の状態に基づいた合理的な訪問であり、
訪問目的が明確で医療的必然性があることが重要です。

過剰提供を防ぐには、

  • 医療と介護の連携強化
  • 訪問内容の透明性向上
  • 適切なアセスメント
  • 制度側の支援・監督

が必要になります。訪問看護の質を守りながら、持続可能な形に整えていくことが、これからの制度設計に求められています。


出典

  • 日本経済新聞「過剰な訪問看護是正 厚労省が診療報酬下げへ」(2025年11月29日 朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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