公営住宅の空き家を学生や技能実習生に活用する動きは、団地再生の象徴的な政策として注目されています。自治会活動の担い手が増え、高齢者の孤立防止やコミュニティ再生にも寄与するため、全国に広まりつつあります。
しかし、社会的に意義深い取り組みである一方、受け入れには慎重な配慮が必要です。本稿では、学生・技能実習生受け入れの課題と、持続可能なモデルにするための条件を整理します。
1. 受け入れ側(団地・自治会)の負担
活動協力を前提とする仕組みでは、学生が自治会活動の“代替労働力”として扱われてしまう懸念があります。
- 学生の負担が過剰にならないか
- 期待値の過多でトラブルが生じないか
- 学生が卒業すると担い手不足が再燃しないか
制度の安売りを避けるためにも、活動内容・時間・役割の明確化が必要です。
2. 学生側の生活環境の質
家賃が安い一方で、築年が古い物件では以下の課題もあります。
- 断熱性能や設備の老朽化
- Wi-Fi環境・間取りの課題
- 若者と高齢者の生活リズムの違い
単に「安さ」だけに依存すると、長期的な定着につながらない可能性があります。
3. 技能実習生受け入れに伴う多文化共生の課題
技能実習生の場合、生活サポートは学生以上に繊細な運用が求められます。
- 言語・文化の壁
- ごみ出しルール・自治会活動の理解不足
- 労働環境との連動した支援が必要
- トラブル発生時の調整窓口の明確化
宮崎市の事例のように「自治会加入」「清掃活動参加」などがうまく機能している例もありますが、事前の支援体制の整備が不可欠です。
4. 「若者依存型モデル」から脱却できるか
学生が卒業し、技能実習生が帰国するたびに担い手が入れ替わる構造では、団地のコミュニティが安定しにくくなります。
持続的なモデルにするためには、
- 地元大学との継続的な枠確保
- 留学生や若手社会人の定着支援
- 団地内に仕事・交流の拠点をつくる
- NPOや地域組織との三者連携モデル
など、中長期的な仕組みづくりが求められます。
結論
学生や技能実習生の受け入れは、団地再生の強力な起爆剤になります。しかし、課題も多く、地域の理解、自治会の体制、受け入れ後の支援、文化的配慮など、丁寧な設計が欠かせません。
団地再生を持続可能なものにするには、「一時的な人口増」ではなく、地域全体が多様な人々を受け入れ、共に暮らしを築く“共生モデル”へと進化できるかどうかが鍵になります。
出典
- 各自治体の公営住宅活用資料
- 技能実習生受け入れに関する研究資料
- 日本経済新聞(2025年11月29日)報道
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

