公営住宅の空き家が地域を救う 若者・学生・技能実習生の入居で蘇る団地の新しいかたち

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昭和期に大量供給された公営住宅は、高齢化や居住者減少により、全国的に空き家が増え続けています。国土交通省の最新データでは、公営住宅の空き家は全国で5万戸を超え、空き家率は2.4%と過去最悪の水準となりました。
一方で近年、空き家の利活用を進める自治体では、学生・技能実習生・芸術家・子育て世帯など、多様な層を「団地に呼び戻す」取り組みが広がっています。

空き家対策にとどまらず、自治会の再生、地域コミュニティの活性化、高齢者の見守り機能の強化など、団地の課題が同時に改善するケースが各地で相次いでいます。

本稿では、宮崎市・東京都・神奈川県・群馬県の事例を中心に、公営住宅が「目的外利用」で蘇る現在の動きを整理し、団地再生に向けたヒントをまとめます。

1. 全国で公営住宅の空き家が深刻化

公営住宅は住宅困窮者へのセーフティネットとして整備されてきましたが、今では建設から40~50年以上経過した物件が多く、以下の課題が顕著です。

  • 高齢化による空き家増加
  • エレベーターのない老朽棟が多い
  • 自治会の担い手不足
  • 修繕費不足により未募集の「潜在空き家」が存在

北九州市立大学の楢原真二名誉教授は、団地住民から「ここはうば捨て山」という諦めの声も聞かれるとし、若者の流入がコミュニティを再生する重要な鍵であると指摘しています。


2. 宮崎市:学生・技能実習生の受け入れで空き家率「全国トップ級の改善」

2023年度、宮崎県は公営住宅の空き家率が1.6%まで改善し、5年前から4ポイント低下しました。改善幅は全国最大です。

とくに宮崎市では、以下の取り組みが成果を上げています。

● 学生・留学生の寮として貸し出し

宮崎大学と協定を締結し、学園木花台団地の空き室を学生寮として提供。
3DKなど間取りが広く、複数人で住むことで家賃負担も抑えられます。

● 農業法人・農協と連携した技能実習生の受け入れ

農業法人が空室を技能実習生の寮として活用。
自治会加入を通じてゴミ収集所の清掃や花壇の手入れなどに参加し、団地側からも歓迎されています。

「挨拶を交わすだけで団地の雰囲気が明るくなった」
「中止されていた祭りの再開も視野に」
(地元自治会役員の声)

若者の流入により自治会が再び機能し始めた点が大きな変化です。


3. 東京都:学生が自治会を支える「住まいと活動の交換モデル」

東京都は2021年度から、都営住宅への学生入居を解禁しました。
入居条件は、

  • 祭りの設営
  • 火の用心パトロール
  • 草刈り・清掃
  • 高齢者の見守り

といった自治会活動への協力です。

家賃は通常の賃貸より大幅に安価で、墨田区内の2DKが月2万円台になるケースもあります。

学生にとっては生活費を抑えつつ実践的な学びが得られ、団地にとっては担い手不足を補うメリットがあります。
すでに14大学・76人が入居しています。

武蔵野大学の学生は、団地での高齢者見守りを卒論テーマにするなど、「団地暮らしそのものが学び」と語っています。


4. 神奈川県:家賃5,000円で学生を受け入れる「笹山団地」

神奈川県営笹山団地(横浜市)では、横浜国立大学の学生を「家賃5,000円」で受け入れています。
学生グループ「神奈助人s(かなすけったーず)」は、

  • 祭りの運営
  • 餅つき
  • 高齢者向けスマホ教室
  • 子ども食堂の支援

など幅広い活動を展開し、入居者との交流が深まっています。

同団地は高齢化率60%超。
老朽化のため2028年までに建て替えが予定されており、空き家は約675戸に増加中ですが、学生の存在が団地の「最後の数年間」を支える形になっています。


5. 群馬県:住み込みで団地再生に挑む「LIFORTプロジェクト」

関東・山梨で唯一、公営住宅の空き家率を縮めた群馬県。
最大の要因とされるのが、前橋市の広瀬団地で行われている「LIFORT(リフォート)」です。

特徴は次の通りです。

  • 大学生が団地に住み込む
  • 入居条件は「まちづくりに携わること」
  • 地元企業と連携し、学生がリフォームも実施
  • 地元就職支援など、団地と地域の双方に貢献

月1回の交流会には住民約30人が集まり、団地に新しいつながりが生まれています。

運営団体代表は「学生が卒業後も地域に定着してくれれば」と期待を寄せています。


6. 公営住宅再生の鍵は「外に開くこと」

立教大学・川村岳人准教授は、公営住宅が地域から孤立すると住まいとして選ばれにくいと指摘します。

そのためには、

  • 団地内に店舗や保育園を誘致
  • コミュニティスペースの設置
  • 外部の人が入りやすいオープンな設計
  • 学生・若者・外国人など多様な層との共生

といった工夫が欠かせません。

「目的外利用(地域対応活用)」は、公営住宅の新たなミッションを描き直す取り組みともいえます。


結論

公営住宅の空き家問題は、老朽化・高齢化・自治会の弱体化など複合的な要因が絡む深刻な社会課題です。
しかし、学生・技能実習生・芸術家・NPOなど、多様な人々を迎え入れることで、団地は再び活気を取り戻し、その地域の生活インフラとして機能し続けることができます。

「空き家を埋める」だけではなく、
地域を再生し、世代をつなぎ、団地をコミュニティとして再び息づかせる
これこそが、公営住宅の新しい役割になりつつあります。

今後、全国で同様の取り組みが広がれば、団地そのものが「地域共生の拠点」として社会的価値を高める可能性があります。


出典

  • 日本経済新聞「目的外で蘇る公営住宅」(2025年11月29日朝刊)
  • 日本経済新聞「公営住宅の空室活用 学生に安く貸し活性化」(2025年11月29日朝刊)
  • 国土交通省 公営住宅関連資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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