AIが生活のあらゆる場面に浸透するにつれ、「AIに代替される仕事」と「AIで価値が高まる仕事」の二極化がはっきりしつつあります。FPという職業も、AIによって業務の一部は効率化されますが、同時に、AIが入り込みにくい領域では新しい機会が生まれつつあります。
本稿では、AI時代にFPが価値を高め、市場を広げていくための「新たな成長領域」を取り上げます。それは、金融教育と、顧客が言語化できていないニーズを引き出す高度なコミュニケーションです。
AIが得意な領域と苦手な領域を明確に区別し、FPが優位性を発揮できる“ブルーオーシャン”とはどこにあるのかを考えていきます。
1. 金融教育市場は「未開拓の巨大ブルーオーシャン」
日本の金融教育は、諸外国と比べて大きく遅れています。
学校教育や家庭教育で金融の基礎が十分に扱われず、多くの国民が投資・保険・税金・社会保障について体系的に学ぶ機会がありません。
その一方で、
- 老後資金の不安
- 投資ブーム
- 新NISAの普及
- ライフプランへの注目
など、金融知識のニーズは急速に拡大しています。
しかし、金融初学者の多くは「質問の仕方すら分からない」という状態にあります。
AIは質問された内容に対しては高い答えを返せますが、
“質問そのものが定まらない人”へのサポートは苦手
という弱点があります。
これはFPにとって大きなチャンスです。
●金融初学者に向けた講座
●自治体の金融教育セミナー
●企業の従業員向けマネー研修
●学校での出張授業
●オンライン個別指導
これらはまさに、FPが主導すべき「未開拓市場」です。
FPが金融教育に本気で取り組めば、
市場規模はFP自身が創り出せる
という点が重要です。
2. ライフプラン相談で求められる“価値観の翻訳”
ライフプランニングは、単なる数字合わせではありません。
顧客が抱える
- 家族関係
- 不安
- 希望
- 人生観
- 職業上の悩み
- 収入・支出の葛藤
といった“個別の文脈”を丁寧に読み解き、将来像に落とし込んでいく営みです。
ところが、多くの顧客は
「自分が本当に何を不安に感じているのか」
を言葉にできていません。
AIは、質問すれば答えてくれますが、
質問する側が気付いていないニーズを掘り起こすことは不得手
です。
たとえば、以下のような場面が典型例です。
- 「本当は家を買うのが怖い」
- 「教育費を優先したいが、老後も心配」
- 「夫婦でお金の価値観が違い、不安を抱えている」
- 「転職したいが、収入の見通しが立たない」
これらは顧客が自覚していなかったり、言葉にしづらい領域です。
FPは対話によって、
顧客自身も気付いていなかった価値観や悩みを“翻訳”して可視化する
ことができます。
これこそが、AIにはないFPの独自価値です。
3. AIでは難しい「個別事情×価値判断」の融合
AIは膨大な知識を処理できますが、
「その人の人生をどう組み立てるべきか」という価値判断には限界があります。
なぜなら、価値判断は
- 本人の性格
- 家族の意向
- 感情の揺れ
- 生活環境
- 価値観の変遷
- 職業上のリスク
など、人間特有の要素の総合判断だからです。
FPは顧客と向き合う中で、
「数字」だけではなく「物語」を読み取ることができます。
そして、顧客が本当に納得できる判断へ導くためには、この“物語理解”が不可欠なのです。
AIがどう進化しても、
「顧客の人生そのものを理解する」
という役割は人間にしか担えません。
4. AIが広める「自己完結型ユーザー」との共存
今後の市場構造は次のように分かれると予想できます。
●① AIを使えば十分な層(自己完結型ユーザー)
- Z世代
- デジタルネイティブ
- 金融知識が比較的高い層
- コスト感度の高い層
こうした層は、AIを使ってある程度のプラン作成を完結してしまうでしょう。
●② 人間の支援が必要な層(FPが担うべき市場)
- 初学者
- 不安が強い人
- 家族関係の複雑なケース
- 経済的に選択肢の揺れが大きい層
- 長期視点で伴走支援を求める層
特に②の層は、人口としても非常に多く存在します。
さらに、
“AIを使える人”と“AIを使いこなせない人”の格差が広がる
と、②の層はむしろ増える可能性すらあります。
FPが狙うべき市場は小さくなるどころか、
AIの普及によって拡大する可能性がある
ということです。
5. FPがAI時代に開拓すべき3つの成長市場
FPがAI時代に価値を高めるためには、次の3つの領域が重要です。
① 金融教育(個人・学校・企業・自治体)
金融リテラシー向上は国家的課題であり、FPが最も価値を提供しやすい市場です。
② 対話を通じた価値観の可視化
“質問して答えを返す”AIにはできない、“気付きの提供”こそFPの存在意義です。
③ 長期伴走型のアドバイス市場
人生100年時代では、人生の意思決定が複雑化しています。
FPが継続的に伴走し、環境変化ごとに軌道修正する価値が高まります。
これらの市場は、いずれもAIが入り込みにくい領域です。
そして、FPが積極的に価値を発揮することで、AI普及による市場縮小圧力を跳ね返す力を持っています。
結論
AIが普及しても、FPの存在意義は決して小さくなりません。むしろ、AIが一般的なツールになることで、
- 初学者の金融教育
- 顧客の価値観の可視化
- 長期伴走型のアドバイス
といった“人間にしかできない仕事”の価値が一段と高まっていきます。
AIに奪われる仕事を恐れるよりも、AIが苦手とする領域で力を発揮し、新しい市場を開拓していくことが、FPが生き残り、価値を高める最も確かな道です。
次回の最終回では、AI時代にFPが「どう生き抜くか」の総まとめとして、生存戦略の全体像を整理していきます。
出典
・日本FP協会「Trend Watch」掲載記事(2024–2025)
・筆者によるFP業界ヒアリング内容
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
