シニア世代の住み替えは、住宅・お金・相続・健康・介護──さまざまなテーマが複雑に絡み合う、大きな人生イベントです。
住み替えそのものは前向きな選択ですが、準備不足のまま進めると「家族の誰もが納得できない結果」になりかねません。
特に多いのが、
・住み替え後の生活費を想定していなかった
・子どもが家を引き継ぎたいと思っていた
・親が契約したリバースモーゲージを相続人が知らなかった
など、家族間で認識のずれが生じるケースです。
こうした失敗を避けるためには、「家族会議」というプロセスが非常に重要です。
今回の第4回では、住み替え・リバースモーゲージ・相続などの問題を整理しながら、家族全員が納得できる結論にたどりつくための実践的な方法を解説します。
1 なぜ、シニアの住み替えには家族会議が必要なのか
住み替えは、親世代だけの問題ではありません。
次のように、家族全員の将来に影響を与えるためです。
● ① 相続に直結する
住まいは相続財産の中で最も価値が大きい資産です。
リバースモーゲージを利用した場合、
- 物件を売却して返済するのか
- 相続人が資金を出して保有するのか
など、家族の選択によって負担が変わります。
● ② 老後の生活基盤であり、介護の問題とも密接
住み替えの場所・間取り・地域の医療機関の多さなどは、介護のしやすさを左右します。
● ③ 判断能力が低下する前にしか話し合えない
後期高齢者になると、認知機能が低下する可能性が高まり、契約行為が難しくなることもあります。
そのため、元気なうちに家族全員が参加する「家族会議」が欠かせません。
2 家族会議を始める前に準備すべき3つの資料
話し合いをスムーズにするには、感情論ではなく「事実に基づく話し合い」が重要です。
そのために、次の3つを事前に準備しておきます。
● ① 現在の生活費・資産・収入の一覧
・年金収入
・預貯金
・保険
・不動産
・生活支出
などを一覧化します。
FPが家計チェックを行うと、説明の客観性が高まります。
● ② 90〜100歳までのキャッシュフロー表
住み替え費用・賃料・管理費・医療費・介護費などの見込みを入れて作成します。
「お金は持つのか」「長寿化を踏まえた住まいになっているか」を可視化できます。
● ③ 住まいの選択肢
・今の家に住み続ける
・リースバックを使う
・コンパクトな住居への住み替え
・サービス付き高齢者向け住宅への移住
・リバースモーゲージで購入
など、可能性を一覧化することで、話し合いが格段に進みます。
3 家族会議の進め方(ステップごとに解説)
Step1:まずは「親の気持ち」を確認する
最初に確認すべきは、親がどうしたいかです。
・今の家に住み続けたいのか
・子どもに家を残したいのか
・利便性の高い場所へ住み替えたいのか
・介護に備えて段差のない家に移りたいのか
親の意思があいまいなままでは、話がまとまりにくくなります。
Step2:子ども世代の意向も確認する
子どもには子どもの生活があります。
そのため、次の点も確認しましょう。
・家を相続したいか
・親に近く住んでほしいか
・介護が発生した場合にどう考えるか
・住み替え後の地域は通いやすいか
ここで意見が分かれることはよくあります。
そのため、対立ではなく「将来の選択肢を共有する」姿勢を大切にします。
Step3:資金計画を確認する
第2回で扱ったように、住み替えの費用は高額です。
・売却費用
・購入費用
・リフォーム費用
・引っ越し費用
・管理費・修繕費
・医療費・介護費
など、長期的に支払える見通しを共有します。
キャッシュフロー表を使うことで、
「今の資金でも住み替えが可能か」
「老後資金が枯渇しないか」
が明確になります。
Step4:制度(リースバック/リバースモーゲージ)の理解
制度を誤解したまま話を進めると、後にトラブルになります。
特にリバースモーゲージは注意点が多く、
- 金利上昇リスク
- 相続発生時の返済方法
- ノンリコースか否か
など、子ども世代の理解が不可欠です。
Step5:結論は急がない
家族会議は一度で終わらせる必要はありません。
多くの家庭では、3〜5回程度に分けて話し合うケースが見られます。
・いったん持ち帰って考える
・追加でシミュレーションする
・物件を見学してイメージを固める
など、十分な時間を取りながら結論へ向かうことが大切です。
4 FPが家族会議をサポートする場合のポイント
FPとして家族会議に同席する場合は、次の役割が求められます。
● ① 中立的なファシリテーター
家族の意見が対立しても、冷静に論点を整理し、合意形成をサポートします。
● ② 情報の「誤解」を解消する
住宅制度・税制・相続制度は複雑です。
誤った理解のまま議論が進まないよう、正しい情報提供を行います。
● ③ キャッシュフローを“見える化”する
感情的な議論ではなく、数字に基づく判断がしやすくなります。
● ④ 親の意向を尊重する仕組み作り
子ども世代の意見に押されて親の意思がかき消えないよう、意思表示のサポートも重要です。
結論
シニアの住み替えは、親世代だけでなく家族全員に影響を与える大きなライフイベントです。
成功させるためには、親の意向・子どもの意向・資金計画・相続の考え方を事前に丁寧に共有し、家族全員が納得できる形を探すプロセスが欠かせません。
家族会議は、そのための「対話の場」です。
複数回にわたり話し合いを行うことで、「自分たち家族にとって最適な選択肢」が自然と見えてきます。
FPは、制度の理解や資金計画の整理を通じて、このプロセスに寄り添いながら、家族の安心と納得につながる選択をサポートしていく立場にあります。
住み替えは、人生後半の暮らしを豊かにする重要な選択です。
家族全員で丁寧に話し合い、納得のいく未来を築きましょう。
出典
・住宅金融支援機構「リ・バース60」制度説明資料
・日本FP協会「シニアの住まいと生活設計」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
