電子帳簿保存法の改正により、領収書・請求書・電子取引データなど、企業や個人事業主が扱う証憑は急速にデジタル化しています。しかし、書類の量が増えれば増えるほど、「保存の仕方」「真実性の担保」「入力ミスの防止」などの管理負担が大きくなるのも事実です。
そこで注目されているのが、AI(人工知能)を活用した証憑管理・仕訳の自動化です。単なるOCR(読み取り)を超えて、不正や誤りを検知したり、帳簿とデータの整合性を判断したりする技術が進んでいます。
本稿では、電子帳簿保存法とAIが結びつくことで、証憑管理がどのように変わるのかを解説します。
1.電子帳簿保存法が求める“正確性”と“整合性”
電子帳簿保存法では、取引データを紙ではなく電子データで保存する際、次のような要件が求められます。
- 改ざん防止(タイムスタンプ・訂正履歴)
- 真実性(元データの保存)
- 可視性(すぐに表示できる状態)
- 一貫性(帳簿・仕訳・証憑の整合性)
紙であれば「日付と金額を一覧で確認すればよい」場面も、電子化が進むとデータの量が膨大になり、人が目視でチェックし続けることは困難になります。
ここにAIが活用されることで、大きく効率化が進んでいます。
2.AI OCRによる「読み取り」の高度化
従来のOCR(文字認識)は、文字を読み取るだけでしたが、AI OCRは読み取った内容を文脈として理解する能力が加わります。
AI OCRの進化ポイントは次の通りです。
- 金額・日付・取引先の判別精度が向上
- レイアウトの違う領収書にも対応
- 外国語領収書の読み取りにも対応
- 手書き文字の認識精度が大幅向上
- 読み取り結果を仕訳形式に自動変換
これにより、「領収書をスマホで撮るだけで、自動仕訳が完成する」という世界が現実に近づいています。
3.AIによる「不備チェック」
電子帳簿保存法では、誤った保存方法や入力ミスは税務リスクにつながります。AIは以下のような不備を自動で検知することが可能です。
- 日付と取引内容の矛盾
- 消費税の計算誤り
- 取引先名の揺れ(株式会社/(株)など)
- 仕訳科目の不整合
- 金額の桁違い
- 同一領収書の重複登録
- 改ざんの可能性
人が見落としがちな小さな違和感をAIが拾い上げるため、リスク管理のレベルが一段上がります。
4.AIが「整合性」を自動でチェックする時代へ
電子帳簿保存法の要件の中でも、今後AIが最も力を発揮するのは「データの整合性チェック」です。
AIが自動で確認できる項目
- 仕訳データ × 証憑データ
- 売上データ × 請求書 × 入金データ
- 仕入データ × インボイス × 支払データ
- 外注費 × 契約内容 × 請求内容
つまり、単発のデータではなく、“データのつながり”を自動でチェックできる時代になってきました。
これは税務調査でも重視されるポイントです。
デジタルデータが整合していれば、調査が迅速化される可能性も高まります。
5.中小企業にとってのメリット
AI×電子帳簿保存法の組み合わせは、中小企業にこそ大きなメリットがあります。
- 経理担当者の負担が大幅に軽減
- 入力ミスが減り、税務リスクが下がる
- 紙の保管コストを削減
- バックオフィスの省力化が加速
- 決算・申告のスピードが上がる
特に、「経理担当が1人だけ」という会社では、AIの導入効果が顕著に現れます。
6.税理士業務はどう変わるのか
AIによる自動化が進むと、「税理士の仕事が減るのでは」と思われる方も多いかもしれません。しかし実際には、役割は減るどころか、むしろ次の方向に広がることが予想されます。
税理士が担う新しい価値
- AIを活用した記帳体制の整備
- 電子帳簿保存法の運用設計(社内ルール整備)
- 証憑データの統合管理アドバイス
- 税務リスクの事前検知
- 経営者への財務コンサルティングの充実
“入力作業の代行”から、“経営と税務の橋渡し役”へ。
AIは税理士の仕事を奪うのではなく、「より専門性の高い領域」に集中できる環境を作りつつあります。
7.注意点:AIは万能ではない
AIを活用するうえで、以下の点には注意が必要です。
- 読み取りミスはゼロではない
- AIの判断が必ずしも正しいとは限らない
- 法令変更に追いつかないことがある
- システム導入コストがかかる
- 最終判断はあくまで人間が行う必要がある
AIはあくまで「強力なアシスタント」です。
最終的な税務判断を誤らないためにも、人のチェックは必要です。
終章
電子帳簿保存法とAIの組み合わせは、証憑管理の常識を大きく変えようとしています。
- AI OCRで領収書読み取りが高度化
- 自動仕訳・不備検知でミスが減る
- データの整合性チェックが容易になる
- 税務調査への備えも強化できる
- 税理士の役割は“高度な支援”へ進化
これからの証憑管理は、紙を集めてファイルに閉じる時代から、
「データを整理し、AIが整合性をチェックする時代」 に移行していきます。
次回は 第5回「AIと税理士の仕事 ― 専門家に求められる新しい価値」 を作成します。
出典
- 国税庁「電子帳簿保存法Q&A」
- 行政資料「電子取引データ保存義務に関する説明資料」
- 各種AI OCR・自動仕訳サービスの公表データ
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
