政府・与党は、投資用不動産の相続税評価を見直す際の軸として、「購入から一定期間以内に相続が発生したケース」に重点を置いています。
特に「購入後5年以内」が有力な基準とされており、これに該当する不動産については、現行の路線価評価ではなく「購入価格ベース」で評価する方向で議論が進んでいます。
今回は、この「5年以内」という基準がなぜ重要視されるのか、どのような影響があるのかを解説します。
1.なぜ「5年間」が焦点になるのか
政府・与党が調整する中で、「購入後5年以内の相続」が中心的な議論となっている背景は次のとおりです。
- 節税目的の短期購入を狙い撃ちできるため
- 長期保有の投資不動産まで広く巻き込むリスクが少ないため
- 不動産市場の変動を適切に反映しやすい期間だから
相続直前の高額不動産購入は明確に節税目的であることが多く、5年程度の期間を区切ることで、そのようなスキームを封じやすいと考えられています。
2.5年以内の購入と判断された場合の評価方法
「購入後5年以内」に該当すると、次のステップで評価額が決まる案が有力です。
(1)購入時の価格を起点にする
売買契約書や領収書などで確認できる取得価格が基準になります。
(2)地価変動率を反映
購入から相続までの間に地価が上昇または下落した場合、その変動を反映します。
(3)そこから約2割程度減額する
不動産の利用制約や市場変動リスクを考慮し、購入価格の全額を評価額に用いない仕組みです。
結果として、路線価評価より高い評価額となるケースが多く、短期購入による節税はほぼ機能しなくなります。
3.実際のイメージ
例として以下のケースを考えます。
- 被相続人が相続1年前に2億円で投資用マンションを購入
- 路線価ベースの現行評価:約1億2,000万円
- 新方式の場合:
①購入価格 2億円
②地価変動(仮に横ばいとして)2億円
③2割減 → 評価額 1億6,000万円
従来より4,000万円ほど評価額が高くなるため、相続税負担は大幅に増えます。
4.節税スキーム封じの決定打になる
今回の「5年以内ルール」は、いわゆる節税不動産の“抜け穴封じ”として極めて強力です。
- 相続直前に数億円規模の不動産を購入
- 実勢価格に比べて路線価評価が大きく下がる
- 現金→不動産への組み替えで税負担を圧縮
といったスキームは、購入価格ベース評価が導入されれば実質的に機能しなくなります。
「タワマン節税」への是正に続き、一般の賃貸マンションやオフィスビルも“短期節税”は封じられる方向です。
5.長期保有の場合はどうなるのか
5年以内という区切りは、以下の配慮が込められています。
- 10年、20年と長く所有している不動産は、節税目的とは言い難い
- 長期保有の収益物件まで厳しいルールを適用すると、投資意欲を損ねる
- 不動産市場の変動を踏まえると、5年を超えると購入価格と実勢価格が乖離しやすい
そのため、5年を超える保有期間の不動産は原則として現行評価(路線価ベース)を維持する見込みです。
6.5年以内の判定で注意すべきポイント
今後制度化される際に、次の観点には注意が必要です。
(1)起算日はいつか
- 売買契約日か
- 引渡日か
- 登記日か
具体的な基準は税制改正大綱で決まる予定です。
(2)相続が開始した時点で判断
相続発生(死亡日)を基準とするかどうか、明確化が必要です。
(3)贈与でも同じ扱いになるのか
将来的に贈与税との整合性が議論される可能性があります。
制度の詳細が確定するまでは、不動産購入のタイミングには特に注意が必要です。
結論
「購入から5年以内」の不動産について、相続税評価を購入価格ベースで行う方向は、短期節税スキームを封じる上で非常に強力な対策です。
これにより、相続直前の高額不動産購入は税務上のメリットがほとんどなくなります。
一方、長期保有の物件や通常の投資目的で購入した不動産、居住用不動産には大きな影響が出ないよう、配慮した制度設計が進められています。
次回の第4回では、節税目的で注目されてきた
「不動産小口化商品」の評価が今後どう変わるのか
について詳しく解説します。
出典
・日本経済新聞(不動産相続税見直しに関する報道)
・政府・与党 税制調査会資料
・国税庁 公表資料(財産評価、タワマン評価見直し等)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
