シリーズ:アラウンド古希の働き方 シニアが働き続けるための社会制度と政策動向編(第6回)「70歳まで働く」のその先を支える制度はどこまで進んでいるのか

FP
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

70歳までの雇用継続が努力義務となり、希望者全員の65歳までの雇用継続が2025年4月から義務化されるなど、シニアの働き方を支える制度が大きく変化しています。
しかし実際には、制度の改正ペースに企業や社会の現場が追いつけていない部分も少なくありません。

この記事では、シニアが安心して働き続けるための“制度の現在地”を整理し、今後期待される政策の方向性をわかりやすく解説します。

1.制度面で進む「高齢者雇用」の流れ

ここ数年、高齢者雇用は国の重要政策として位置づけられてきました。

主なポイントは次の通りです。

  • 65歳までの雇用継続義務(2025年4月〜)
  • 70歳までの就業機会確保(2021年4月〜努力義務)
  • 健康寿命の延伸政策との連携
  • 公的年金の在り方の柔軟化(受給開始年齢の選択肢が広がる)
  • 産業医制度の強化・職場の安全衛生対策の充実

政府の見通しでは、65歳以上の就業者数は
2035年に1400万人超
と予測されており、シニアは最も重要な働き手として位置づけられつつあります。


2.年金制度との関係 ― “働きながら受け取る”が前提に

シニアが働くうえで欠かせないのが年金制度です。

① 受給開始年齢の拡大

現在、60〜75歳の間で受給開始時期を選べます。
“繰り下げ”をすれば年金額は増えます(1カ月0.7%増)。
働き続けることで、経済的に余裕がある人は繰り下げを選びやすくなっています。

② 在職老齢年金制度の緩和

働くシニアの年金が減る「在職老齢年金」も、働き方の変化に合わせて見直しが進んでいます。
基準額の引き上げや制度の単純化が議論されており、今後も“働きやすい制度”へと調整されていく見込みです。

③ 雇用保険の高年齢被保険者制度

65歳以上でも雇用保険に加入し、

  • 高年齢求職者給付金
  • 高年齢雇用継続給付
    など、働き続けるための支援が整備されています。

3.産業保健・職場環境の政策

シニア雇用が増える中で、事故防止と健康管理は最優先の政策領域です。

① 60歳以上の労災が過去最多

2024年には4万654件で過去最多
政策の焦点は「安全管理」と「職場環境の改善」へと移っています。

② 国の推進する産業保健の強化

  • 産業医の権限強化
  • 職場の温度・湿度管理の徹底
  • 労働衛生管理基準の改定
  • ストレスチェック制度の普及

シニア本人の健康維持と事故防止の両面から、制度的支援は年々強化されています。


4.「働き方の選択肢」を広げる政策

シニア雇用で重要視されるのが、年齢に合わせた柔軟な働き方の提供です。

代表的な取り組みは以下の通りです。

① 多様な雇用形態

  • 短時間勤務
  • 週3〜4日勤務
  • 在宅×出勤のハイブリッド勤務
  • 定年後再雇用の弾力化

高齢者雇用安定法の改正により、企業はこれらの選択肢を提供しやすくなっています。

② 職場マッチングの強化

  • ハローワークの高齢者向け窓口
  • 高齢者就業支援センター
  • 地域企業とのマッチングイベント

70代の就職市場は確実に広がりつつあります。


5.今後の政策の焦点は「健康×デジタル×安全」

今後の制度づくりで重要になるのは次の3つです。

(1)健康寿命の延伸

「働ける身体づくり」を政策として支援する流れが強くなっています。

  • リハビリ・フレイル予防
  • 健康診断・がん検診の強化
  • 生活習慣病対策
    などと雇用政策が連動するようになっています。

(2)デジタル格差解消

AI時代の働き方は、デジタルと切り離せません。
シニアのデジタル活用を支援する政策も増加しています。

  • スマホ教室
  • デジタル人材育成補助金
  • 中小企業のDX導入支援

「DXは若者向け」という考え方は完全に過去のものになりました。


(3)事故防止と安全対策の標準化

国はシニアの労働災害の増加を踏まえ、

  • 安全基準の厳格化
  • 職場環境の段差解消
  • 荷物運搬の省力化
  • ヒヤリハット記録の義務化検討
    などの強化策を進めています。

6.企業と社会の関係も変わっていく

シニア雇用は単なる人材対策ではなく、地域社会の維持や医療・介護費の抑制にも直結します。

●働くことが健康になる

働くシニアは認知症リスクやフレイル(虚弱)が低いという研究も増えており、社会保障の持続性にも貢献します。

●地域で役割を持つ人は生活の質が高い

企業に勤めることだけが“働く”のではなく、

  • 地域活動
  • NPO
  • パートタイムの公共サービス
    など、多様な働き方が社会の活性化にもつながります。

結論

70歳までの雇用が当たり前になりつつある中で、制度の整備は着実に進みつつあります。しかしシニアが安心して働くためには、制度と現場をつなぐ取り組みが欠かせません。

今後の焦点は、

  • 健康を守る
  • デジタルとの共存を支える
  • 事故を防ぐ安全基準
  • 柔軟な働き方を広げる
    といった領域に移っています。

シニアの働く意欲を損なわず、社会全体で支えていく仕組みが充実するほど、70歳以降の働き方はより豊かで、多様で、安心できるものになります。


出典

  • 日本経済新聞「〈ライフスタイル シニア〉働く『アラ古希』悩みは…」
  • 日本経済新聞「70歳までの雇用、努力義務」
  • 厚生労働省「労働災害統計」
  • 内閣府・厚労省資料(高齢者雇用・年金制度関係)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました