70歳前後の働き手が増える中で、注目すべき課題が「職場での事故リスク」です。加齢により、筋力や反応速度、視力や聴力が低下し、職場内のちょっとした段差や荷物の扱いでも転倒やヒヤリハットにつながりやすくなります。
実際に、厚生労働省の統計では60歳以上の労働災害が過去最多になっています。
しかし、事故の多くは「ほんの少しの工夫」で確実に減らすことができます。
この記事では、働くシニア本人が今日からできる安全対策を中心に、実践的なポイントを解説します。
1.シニアの事故が増える理由
事故が増える背景には、次のような加齢変化があります。
- 視野が狭くなる(段差に気づきにくい)
- 筋力が低下する(踏ん張りが効かない)
- 聴力の低下(注意喚起の声が届きにくい)
- 反応速度が遅くなる(つまずいても立て直しづらい)
- 疲れやすさの増加(集中力が切れやすい)
こうした変化は自然なものですが、職場で起こる事故と直結します。
だからこそ、「環境の工夫」「行動の工夫」「コミュニケーションの工夫」の三点を整えることが大切です。
2.【環境】事故を防ぐ職場の歩き方・動き方
日常の“歩き方”を意識するだけで、転倒リスクは大きく下がります。
(1)足元の「危険サイン」を習慣化して確認
- 段差
- 床の濡れ
- 梱包材やコード類
特に段ボール・梱包材は“滑りやすい・つまずきやすい”事故の代表例です。
ノジマのヒヤリハットでも多く報告されています。
(2)荷物を持つときは「体より軽い方向」で
- 高い場所の荷物は無理をせず、台を使うか人にお願いする
- しゃがんで持つ場合は背中を丸めない
- 腕だけではなく、体の近くで持つ
小さな習慣が腰・肩の負担を軽くします。
(3)視界を塞ぐ持ち方をしない
段ボールなどを胸の前で抱えると、足元が見えず転倒の原因に。
- 手で持つ
- 台車を使う
- 二人作業に切り替える
など、視界を確保する手段を優先します。
3.【行動】疲れをためない「働き方の工夫」
事故の多くは、集中力が切れた時に起こります。
加齢に伴う疲労の蓄積を防ぐメソッドはとても効果的です。
(1)1~2時間に1度は「こまめ休憩」
立ちっぱなしも座りっぱなしも、どちらもリスク。
- 立ち作業 → 10分に一度、姿勢を変える
- デスク作業 → 1時間に一度、立って歩く
血流を保つことは、転倒防止に直結します。
(2)難しい作業は「午前中」に
体力・集中力のピークは午前中に来やすいため、
- 高い棚の作業
- 重い荷物の運搬
- 集中力を要するチェック作業
など、事故につながりやすい仕事は早めに済ませるのが安全です。
(3)夕方の“焦り”に注意
夕方は疲れが蓄積しやすく、注意力が落ちる時間帯。
特に
- 仕事を急ぐ
- 残業ぎみの時間帯
は事故が起こりやすいため、一呼吸置く習慣をつけましょう。
4.【コミュニケーション】「言いにくい」を言葉にする
事故を防ぐ上で最も大切なのが、周囲への共有です。
(1)「聞こえにくい」は早めに伝える
無線機や呼びかけが聞こえないと、作業ミスだけでなく事故にもつながります。
例:
- 「高い声だと聞き取りづらいです」
- 「もう少しゆっくり話してもらえると助かります」
たった一言で、職場の事故リスクが下がります。
(2)重い荷物は「手伝ってください」と言って良い
無理をしてけがをするより、「助けてください」と言う方が賢明です。
企業側も安全対策として、二人作業の徹底を推奨している例が増えています。
(3)後ろからの声かけには配慮をお願いする
聴力が落ちると、後方からの呼びかけに気づかないことが増えます。
- 肩を軽くたたいてから声をかけてもらう
- 前方から呼びかけてもらう
など、事前に「声掛けルール」を共有しておくことも効果的です。
5.仕事終わりの“セルフ点検”
毎日の終わりに1分だけ「今日のヒヤリハット」を振り返ると、事故の芽を早めに摘むことができます。
例:
- つまずきそうになった場所
- 重く感じた作業
- 疲れを感じた時間帯
- 聞き取りづらかった場面
翌日の安全対策につながるだけでなく、職場と共有すれば組織全体の改善にも貢献します。
結論
シニアが安心して働き続けるためには、「個人の工夫」と「職場環境の改善」の両輪が欠かせません。
特に本人ができる安全対策は、難しいものではなく、日常の小さな意識と習慣の積み重ねです。
歩き方、荷物の扱い方、疲労のコントロール、コミュニケーションの工夫。
これらが揃えば、事故は確実に減り、70歳以降の働き方にも大きな自信が生まれます。
次回は、「第3回:企業が取り組むべきシニア活躍の職場づくり」を予定しています。
企業側の制度・環境整備を中心にまとめていきます。
出典
- 日本経済新聞「〈ライフスタイル シニア〉働く『アラ古希』悩みは…」
- 厚生労働省「労働災害統計」
- 各社ヒヤリハット事例(報道等より)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
