【第4回】社内制度・規程のアップデートが会社を救う

FP
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事業承継を語る際、多くの企業で見落とされがちなテーマがあります。それが「社内制度・規程の老朽化」です。
経営者の交代という大きな節目は、単に人が変わるだけではありません。新しい体制にふさわしい組織運営のルールが整っているかどうかが、事業承継後の安定性を大きく左右します。

創業期のベンチャー企業のように、勢いと社長の情熱で突き進む経営は、先代だからこそ成り立ったことでもあります。しかし、後継者にそのまま属人的な文化を押しつけると、組織としての一貫性を保てず、社員の期待を裏切る結果にもつながります。

本稿では、「なぜ社内制度の見直しが事業承継に不可欠なのか」「具体的にどこをどのように見直すべきか」を深く掘り下げます。

1. 社内制度が古くなると会社は急速に弱体化する

先代経営者がカリスマ性や独自の判断で企業を牽引していた場合、社内制度や規程は「最低限の体裁」でしか整っていないケースが少なくありません。

たとえば次のような状況です。

  • 就業規則が10年以上更新されていない
  • 労働時間の管理が曖昧で、現場任せになっている
  • ハラスメントに関する規程が存在しない、あるいは不十分
  • SNS・情報管理のルールがない
  • トラブル発生時の対応マニュアルが存在しない
  • リモートワークや副業に関する規程がまったく整備されていない

これらは、先代のカリスマ性のもとでは「問題化しないまま」放置されてきたものかもしれません。しかし、後継者が社長に就任すると、それらは一気に表面化し、会社運営に大きな負担となるのです。

制度が古いままで事業承継を迎える企業では、次のようなリスクが現実に起こりえます。

  • 若手社員からの不満・離職増加
  • 働き方や待遇に不公平感が生まれる
  • 古い慣習が残り、組織が硬直化する
  • 取引先や金融機関から「ガバナンスに課題あり」と評価される
  • 法改正に対応できず、コンプライアンス違反の可能性が出る

つまり、制度の老朽化は“見えない経営リスク”であり、事業承継前に解消しておかなければ、後継者は就任直後からトラブル対応に追われ、経営の本質的な仕事ができなくなります。

2. 後継者が制度整備をすると「反発」が起きやすい

制度整備は後継者側から見ても負担の大きい仕事です。
特に、以下のような状況では、後継者が制度改革を進めようとしても社内で反発が起きます。

  • 古参社員が強い影響力を持っている
  • 「いままで通りでいい」という文化が根強い
  • 先代の方針を絶対視する幹部が多い
  • 社員が後継者の権威を十分に認めていない

「先代の時はこんなことしなかった」
「ルールを増やすなんて偉そうだ」
「新社長は現場をわかっていない」

こういった声は、小さな組織ほど強く現れます。

そのため、制度整備は本来、現社長(先代)が主導して行うべき重要な経営承継作業です。
後継者に任せるとトラブルを招きやすいため、承継前に先代が率先して体制を整えることが望ましいのです。

3. 見直すべき主要な社内制度と、その理由

事業承継と同時に見直すべき制度は、大きく分けて5つあります。

(1)就業規則・労務管理

会社の最も基本的なルールである就業規則が古いと、社員の不満、労務リスク、トラブルが増加します。

たとえば、以下のような点が問題になりやすい項目です。

  • 時間外労働の管理
  • 副業・兼業の取り扱い
  • テレワークにおける勤務ルール
  • 休暇制度の運用
  • 退職手続きの規定

特に労働基準監督署の調査が厳しくなるなかで、労務リスクを放置することは会社の存続に関わる問題です。

(2)ハラスメント対策

パワハラ・セクハラ・マタハラなど、職場で起こり得るトラブルは年々複雑化しています。
ハラスメント対策がない会社は、若い世代から敬遠され、人材確保が難しくなります。

(3)情報セキュリティ・個人情報保護

リモートワーク・SNS利用が当たり前となった現在、情報漏洩対策が弱い会社は信用を失います。
中小企業でも、情報管理体制を整えることは必須です。

(4)コンプライアンス体制

近年は、中小企業に対してもコンプライアンスが厳しく求められています。
商法・税法・労基法などの法令順守はもちろん、社内のチェック体制が求められます。

(5)社内評価制度・昇給制度

曖昧な評価制度は、不満・不公平を生み、優秀な人材が会社を離れる原因になります。
後継者が経営を担うためには、公平で透明性のある制度が不可欠です。

4. 制度のアップデートは「会社の変革」の第一歩

制度整備には、単なるルール作りを超えた意味があります。それは、会社の価値観を次世代仕様にアップデートする作業だということです。

例えば…

  • 「何となく先輩に合わせる文化」をなくす
  • 「人によってルールが違う」状態を解消する
  • 「先代の判断ありき」の体質から脱却する
  • 後継者が公平に判断できる仕組みを整える

制度が整うと、社員は「次世代の会社はこう進むのだな」と理解できます。
つまり制度整備とは、後継者への信頼を高め、承継後の混乱を防ぐための準備でもあります。

5. 制度見直しは後継者のためではなく“会社全体のため”

制度整備には手間と時間がかかります。また、社員に制度変更を説明し理解を得るためのコミュニケーションも必要です。
しかし、制度のアップデートは後継者のためだけではなく、会社全体の未来を守るための投資です。

  • 人材が定着する
  • 若い世代から選ばれる企業になる
  • 外部評価(金融機関・取引先)が高まる
  • トラブル発生率が大幅に減る
  • 後継者が安心して経営判断を行える

このように制度整備は、全社員に利益をもたらす取り組みです。

結論

事業承継は、単に後継者を決め、株を渡せば終わるものではありません。後継者が安心して社長の責務を果たすためには、組織運営を支える土台である「社内制度・規程」が現代の基準に合っていることが不可欠です。

制度が整った会社は、後継者が経営に集中でき、社員も安心して働けます。逆に制度が古いままでは、どれほど優秀な後継者が現れても、会社の未来は不安定なものになります。

事業承継は、「会社を次世代に引き渡すプロジェクト」です。
そのためには、制度整備という“見えないインフラ”を整え、未来へ続く強い組織づくりを進めていく必要があります。

次回は本シリーズの総まとめとして、専門家や金融機関と連携しながら「経営承継計画」をつくる方法を詳しく解説します。

出典

・日本経済新聞「事業承継の本質は経営承継にあり」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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