AI導入が進む中で、「AIを入れれば仕事が劇的に変わるのではないか」と期待する企業は少なくありません。しかし、AI企業のトップが繰り返し強調しているのは、実は“AI導入の難しさ”は技術そのものではなく データの質 にあるという点です。
料理に例えると、どれほど高性能な包丁や最新式の電動ミキサーを揃えても、食材が腐っていれば良い料理は決して完成しません。同じように、AIはどれほど優れていても、入力するデータが不正確だったり、未整理だったりすると、正確な結果は返してくれません。
今回の記事では、「AI導入の成功はデータ次第」という核心に迫り、企業がどのようにデータ整備に取り組むべきかを整理します。
1. AIの性能は“与えるデータ”で決まる
生成AIや大規模言語モデル(LLM)は膨大なデータをもとに動きます。
そのため、社内でAI活用が進むほど、次の問題が顕在化します。
- どのデータが最新か分からない
- 文書の形式が部署ごとにバラバラ
- 過去のファイルが大量に放置されている
- ExcelやPDFが乱立し、検索しても目的の情報に辿り着けない
AIは「整理されていないデータが大量にある状態」を最も苦手とします。
その結果、AIに質問しても誤回答が増えたり、現場が混乱したりします。
2. IBMの事例:成功の背景は“データ整備”にあり
日本IBMはAIを積極的に社内業務へ導入し、次のような成果を上げています。
- 人事関連の業務の40%をAIが代替
- 社内ヘルプデスク業務の75%をAIが処理
一見すると、AIの技術力が高いことが理由のように思えますが、実際には データの整備 が成功を支えています。
IBMのトップは次のように述べています。
「包丁やミキサーがどれだけ優れていても、素材(データ)が傷んでいれば良い結果は出ない」
つまり、AI導入は「ツールより素材」なのです。
3. AI導入前に企業が取り組むべき“データの下ごしらえ”
AIは大量のデータを“読む”ことで仕事をします。
そのため企業は、次のようなデータの整備が欠かせません。
● 文書の統一ルールを作る
- ファイル名
- 保存フォルダ
- バージョン管理
- 文書のフォーマット
部署ごとに違うルールでファイルが作られるとAIは混乱します。
● 古いファイルの棚卸し
- 重複データの削除
- 廃止済みルールの破棄
- 過去のバージョンの整理
- 必要な情報だけを残す
「情報のゴミ屋敷」を掃除しないままAIを入れると、逆効果になります。
● データを“説明可能な形”で整理
AIに学習させたい情報は、
- 文書化
- 理由付け
- 手順化
しておく必要があります。
暗黙知が多いとAIは正確に理解できず、期待した成果は得られません。
4. AIは“万能な秘書”ではなく、“優秀だが素材に依存する料理人”
AIは驚くほど高性能ですが、次のような特性があります。
- データが間違っていれば、間違った答えを返す
- 古い情報を読み込ませれば、古い判断をする
- あいまいな資料しかなければ、あいまいな結論しか出せない
つまり、AIの出力結果は 入力するデータの質と量 に強く依存します。
これは人間よりも依存度が高いともいえます。
5. 企業は“AI導入=データ基盤の整備”と理解するべき
AIの導入は、単にツールを導入することではありません。
- 文書化
- 標準化
- データ統一
- ナレッジ管理
こうした地味な作業こそ、AIの能力を最大限引き出すための投資です。
逆に言えば、
データが揃えばAIの導入効果は一気に跳ね上がる
ということでもあります。
AI時代の組織にとって、「データの質を高めること=競争力を高めること」なのです。
■ 結論
AIの性能を最大限に引き出す最大の鍵は、“どんなデータを与えるか”です。
- データが乱れていれば、AIは混乱する
- データが整えば、AIは劇的に性能を発揮する
- AI導入はツールより「素材」への投資が重要
AIは優秀なアシスタントでありながら、素材(データ)に敏感な存在です。
次回の第6回では、「AIと景気・政策の関係」に焦点を当て、
AIショックが起きる条件、そして社会がどう備えるべきかを解説します。
■ 出典
- 日本経済新聞(2025年11月)関連記事
- IBMをはじめとしたAI導入企業のコメント
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
