【土地評価の落とし穴シリーズ・第5回】造成工事費控除で評価はどこまで下がる?― 崖地・高低差のある土地の評価で間違いやすいポイント

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

相続した土地が「崖地になっている」「道路より低い(または高い)」「段差が大きい」などの場合、
「この部分は使えないから評価は下がるのでは?」
と考える方が多いと思います。

実際、相続税の土地評価には、
造成工事費控除(造成費控除)
と呼ばれる評価方法があり、地形が原因で利用価値が著しく低い場合には評価額を減額できます。

しかし、この造成工事費控除は誤解も多く、
・本来下げられるのに過大評価してしまう
・逆に過剰に評価を下げ、後で税務署から指摘を受ける
といったトラブルが非常に多い分野です。

今回は、崖地・高低差の評価をどこまで認められるのか、実務で重要なポイントを分かりやすく整理します。

1. 造成工事費控除とは?

造成工事費控除とは、道路より著しく高い・低いなど、
そのままの状態では通常の建築ができない土地
について、宅地として利用できる状態にするための費用を評価額から控除する制度です。

たとえば、

  • 擁壁工事
  • 地盤改良
  • 埋め立て(盛土)
  • 切土(削って平坦にする)
    などが必要な場合、その見積額を基に控除します。

目的は、
“本来かかる追加費用を考慮し、適正な土地価値に補正する”
という点にあります。


2. 控除が認められる典型的なケース

実務では、次のような土地が造成工事費控除の対象になりやすいです。

■① 道路との高低差が大きい土地

宅地全体が道路より1~2メートル以上高い・低い状態。
住宅の建築にあたり階段・擁壁などの大規模工事が必要。

■② 崖地を含む土地

敷地の一部に急斜面(がけ)が存在し、安全上の措置が必須。

■③ 極端に不整形な地盤

地盤の凹凸が激しく、平坦にするための工事が不可欠。

これらは住宅建築のための“追加費用”が客観的に必要となるため、評価減の正当性が高い分野です。


3. よくある誤解と“危険な落とし穴”

❌ 落とし穴①:「なんとなく使いづらい」では認められない

軽度の段差や小さな高低差だけでは造成費控除は難しいです。
実際に「通常の建築が困難なレベル」である必要があります。


❌ 落とし穴②:造成費を“推定”で計算してしまう

造成費は土地の大きさ・地盤状況によって全く異なります。
専門業者の見積書なしに推計で行うと、後に否認される恐れがあります。


❌ 落とし穴③:古い擁壁や既存工事を過大に評価

すでに使える状態に造成されている場合、追加工事が必要なければ控除対象にはなりません。


❌ 落とし穴④:造成しない前提で評価しようとする

「工事はしない予定だから」という理由では控除は認められません。
評価は“建築可能にする場合の工事費”で判定します。


4. 控除額はどのように計算される?

造成工事費控除は、以下のように算定します。

✔① 建築可能な状態にするために必要な工事を見積もる

例:擁壁工事、地盤改良、造成費など。

✔② 土地の面積に応じて合理的に按分する

例:不整形部分が土地全体の20%であれば、その20%に対応する工事費のみ控除。

✔③ 評価額から控除する

路線価 × 面積 − 造成工事費(適正根拠つき)

ポイントは、
“必要な工事費を根拠資料つきで算出すること”
です。


5. 不動産鑑定士や建設業者の協力が重要

造成工事費控除は専門性が高いため、次のような資料が必要となります。

  • 建設会社の正式見積書
  • 現地調査に基づく工事内容の説明
  • 崖地や高低差の測量図
  • 不動産鑑定士の評価書
  • 写真・ドローン撮影による記録

税務署に説明するには、
“合理的な根拠”と“客観的資料”
が不可欠です。


6. 造成工事費控除が相続税に与える影響は大きい

造成費は数十万円〜数百万円規模になることもあります。

例:

  • 高低差1.5m → 擁壁工事200万円
  • 崖地10m → 安全工事300〜500万円
  • 大規模地盤改良 → 500万円以上

評価額が大きく変わるため、
控除の対象かどうかの判断が相続税額に直結します。

結論

造成工事費控除は、崖地や高低差のある土地の評価を適正化する非常に重要な制度です。しかし、土地の状態を正確に把握しなければ、評価額を過大にも過小にもしてしまう可能性があります。

・本当に工事が必要な状態か?
・工事費の見積もりに客観性はあるか?
・土地全体のうちどこまでが対象か?

これらを一つずつ丁寧に確認することが、誤りのない土地評価につながります。

造成費控除が関係しそうな場合は、
税理士・不動産鑑定士・建設業者・土地家屋調査士など
複数の専門家の意見を踏まえながら慎重に判断することが大切です。

出典

・国税庁「財産評価基本通達」
・国税庁「宅地の評価」関連通達
・建築基準法関連資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました