【土地評価の落とし穴シリーズ・第3回】セットバック部分の評価はゼロ:境界線を誤ると税額が大きく変わる理由

税理士
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相続税の土地評価で意外と見落とされやすいのが「セットバック」です。セットバックとは、道路が建築基準法で定める幅員(原則4メートル)に満たない場合、道路中心線から一定距離を敷地側に後退させて建築できるようにする仕組みです。

この後退部分は建築に使えないため、通常の宅地と同じ価値があるわけではありません。しかし、実務ではセットバック部分の面積や範囲を誤って評価額が高くなってしまったり、逆に過剰に評価減して税務署から指摘されるなど、トラブルも多く見られます。

今回は、セットバックが土地評価にどう影響するのかを分かりやすく整理します。

1. セットバックとは何か

建築基準法では、建物を建てるためには、敷地が幅4メートル以上の道路に2メートル以上接している必要があります。
しかし、古い住宅街などでは、道路幅が4メートル未満の「みなし道路」が残っています。

その場合、
道路中心線から2メートル確保できるよう、敷地の一部を道路側へ後退させる必要があります。

この後退部分が「セットバック部分」です。


2. 相続税評価ではセットバック部分の価値はゼロ

財産評価基本通達では、セットバック部分は
「建築などの通常の利用ができないため、価値を認めない」
とされています。

つまり、次のように評価します。

✔ セットバック部分:評価額 0 円

✔ 残りの有効宅地部分:通常どおり路線価等で評価

セットバックを正しく反映しないと、本来より高い評価額で相続税を申告してしまう可能性があります。


3. よくある落とし穴

❌ 落とし穴①:セットバック面積を実測していない

古い公図のまま面積を計算すると、実際の道路幅や中心線とズレていることがあり、セットバック範囲が誤って計算されることがあります。

→ 市区町村が作成する「道路台帳」や実測図の確認が必須です。


❌ 落とし穴②:敷地全体にセットバックがかかると誤解している

実際には、道路境界線に沿った帯状の部分だけです。
間口が広い土地ほどセットバック面積が大きくなります。


❌ 落とし穴③:旗竿地の「竿の部分」がすべてセットバックと思い込む

竿部分が道路に面していても、必ずしも全てがセットバック適用とは限りません。
道路中心線から測定する必要があります。


❌ 落とし穴④:セットバック後の地型の変化を無視している

セットバックによって形が歪んだり、間口が狭くなり「奥行価格補正」など追加の補正項目が生じることがあります。


4. 実務で必要となる資料

セットバックを正しく評価するために、次の資料が役立ちます。

  • 市役所の「道路台帳」
  • 建築基準法上の道路判定通知
  • 測量図(可能であれば現地測量)
  • セットバック部分を明確に示した図面
  • 不動産会社や土地家屋調査士の意見

これらを確認せずに面積を推定で計算すると、後から税務署に指摘される可能性があります。


5. セットバックは税額に大きく影響する

セットバック部分が大きい土地では、評価額が次のように大きく変わることがあります。

例:路線価 20万円/㎡ の土地(100㎡)→セットバック10㎡
・セットバックなし評価:20万円 × 100㎡ = 2,000万円
・セットバック適正反映:20万円 × 90㎡ = 1,800万円

差額200万円
(相続人が3人いれば配分の差も発生)

セットバックが適正に反映されるかどうかで、税額だけでなく遺産分割にも大きな影響があります。

結論

セットバック部分は、相続税評価では「価値ゼロ」とされる重要な要素です。
にもかかわらず、実務では面積の算定誤りや根拠資料の不足により、誤った評価が行われやすい分野です。

正しい面積を把握し、道路中心線・幅員・後退距離を正確に確認することで、
・適正な相続税評価
・不要な税負担の回避
・円滑な遺産分割
につながります。

セットバックが関係しそうな土地の場合は、土地家屋調査士・税理士など専門家と連携しながら、慎重に評価することが大切です。

出典

・国税庁「財産評価基本通達」
・建築基準法42条(道路に関する規定)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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