AI時代のキャリア戦略を考えるうえで欠かせない視点が、「自分の職種ではどのようにAIが活用され、どこに人間の価値が残るのか」という見極めです。
AIはあらゆる職種に浸透しつつありますが、置き換わりやすい領域、逆に人が強みを発揮できる領域は職種によって大きく異なります。
第3回となる本稿では、主要な職種ごとにAI活用の現実と、働く人に求められるスキルセットを整理します。
1 事務職・バックオフィス
① AIが得意な領域
- 書類作成
- 会議録・議事要約
- データ入力
- 基礎的なリサーチ
- 定型メールの作成
- 経費処理・仕訳補助(AI-OCR・自動仕訳)
AIによる代替可能性が最も高い分野であり、業務の大部分が自動化対象とされています。
② 人間に求められるスキル
- 業務全体を俯瞰した改善力
- 部門横断のコミュニケーション
- 情報整理と判断
- 社内調整・交渉
- セキュリティ・法務リテラシー
③ キャリア戦略
AIが処理した成果物を検証し、業務フローを再設計できる人材へ。
「事務作業の実行者」から「業務プロセスのマネージャー」への転換が求められます。
2 営業職・カスタマーサクセス
① AIが得意な領域
- 提案資料の叩き台作成
- 顧客情報の分析
- 需要予測・確度分析
- 問い合わせの一次対応
- セールストークの案出し
営業活動における情報処理部分は大きく効率化されます。
② 人間に求められるスキル
- 顧客の深層ニーズを見抜く力
- 関係構築・信頼形成
- クロージング力
- 顧客の状況を踏まえた提案の微修正(AIには難しい領域)
- トラブル対応・謝罪・調整
③ キャリア戦略
「資料を作る営業」から「顧客価値を創る営業」へ。
AIを使って準備時間を削り、対人領域に専念するほど価値が高まります。
3 企画・マーケティング
① AIが得意な領域
- 市場調査・競合分析
- トレンド抽出
- ペルソナ設定案
- 広告コピー案出し
- コンテンツ生成
- データ分析の一次処理
調査と一次分析はほぼAIで代替可能です。
② 人間に求められるスキル
- 企画の方向性を決める意思決定
- AIが生成した情報の取捨選択
- クリエイティブの最終判断
- ブランド価値を理解した編集
- 社内外のステークホルダー調整
- データと現場感覚の統合
③ キャリア戦略
AIが出した大量の選択肢から「何を採用するか」を決める選択能力が核となります。
“0→1”よりも“1→10”を磨くことで、AIと最も相性の良い分野になります。
4 エンジニア・システム開発
① AIが得意な領域
- コード生成
- デバッグ補助
- テストコード作成
- 仕様書の下書き
- アーキテクチャ案出し
- ドキュメント整理
すでにAIが業務の30〜50%を担うケースもあり、最も影響が大きい職種です。
② 人間に求められるスキル
- システム全体を俯瞰する設計力
- 依頼内容を正確に要件化する力
- 例外処理やセキュリティの判断
- チーム開発・合意形成
- 技術選定とリスク評価
- ビジネス理解
③ キャリア戦略
「手を動かす職人型エンジニア」よりも「設計・要件定義に強いエンジニア」が強く求められる時代へ。
AIとの協働が前提となるため、PM・テックリードへのキャリアアップが加速します。
5 専門職(税理士・会計士・弁護士・コンサル等)
① AIが得意な領域
- 基礎調査・法令リサーチ
- 初期の論点整理
- 文書の下書き
- ケース比較
- 申告書のチェック(AI-OCR)
- 契約書のリスク抽出
- モデリング作業の一部
高度な知識を必要とする領域でも、AIが補助役として深く入り込んでいます。
② 人間に求められるスキル
- 個別状況に応じた判断
- 法的責任を伴う意思決定
- 顧客との信頼構築
- 業務全体の品質管理
- 事業戦略の助言
- “最後の1%”の専門判断
③ キャリア戦略
専門知識だけでは差別化しにくくなり、
「専門×AI活用×顧客理解」が新しい価値領域に。
特にAIを使って業務の標準化・モデル化ができる専門家は圧倒的に強くなります。
6 マネジメント職
① AIが得意な領域
- プロジェクト管理の可視化
- KPI分析
- リスクシナリオ案
- 会議資料の生成
- 業務進捗の集計
管理業務の多くはAIで半自動化されます。
② 人間に求められるスキル
- 方針の決定
- メンバーの育成
- 人間関係の調整
- 組織文化の形成
- 例外対応・判断
- モラル・倫理的責任
③ キャリア戦略
マネージャーの価値は「人を動かす力」と「判断の質」に集約されます。
AIが分析を担当し、人が“最終判断者”としての役割に集中する構図が強くなります。
結論
AIはどの職種においても作業の一定割合を代替し、業務の形を大きく変えています。
しかし、AIが進化するほど、人間は「判断・調整・価値創造」といった非代替領域で存在感を発揮できるようになります。
重要なのは、
“自分の職種でAIが何を肩代わりし、何が価値として残るのか”
を理解し、スキルセットを再構築することです。
AIを積極的に使う人ほど、自分の役割と強みが明確になり、キャリアの選択肢も広がっていきます。
職種ごとの特徴を踏まえたうえで「AIとの協働」を前提としたキャリア戦略を描くことが、これからの時代を生き抜く鍵になります。
出典
・総務省「AI白書」
・経済産業省「AI人材育成関連資料」
・日本経済新聞 AI関連記事
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
