定年が近づく50代・60代にとって、最も気がかりなテーマが
「定年後の収入をどう確保するか」
という問題です。
日本の公的年金は終身で支給される強力な仕組みですが、
60代前半〜70代前半は、年金だけで生活費をまかなうのが難しいケースもあります。
一方、人生100年時代では、65歳・70歳以降も働きたい人が増えており、
“働きながら年金を受け取る”というスタイルが一般的になりつつあります。
本記事では、年金と仕事をどのように組み合わせれば
安定した老後のキャッシュフローが実現できるのか、
税理士・FPの視点も交えて解説します。
■ 定年後の収入は「3つの柱」で考える
定年後の収入設計は、次の3つを組み合わせるのが基本です。
■ 1. 公的年金(老齢基礎・老齢厚生)
最も安定し、終身支給される「人生のベース収入」です。
- 65歳が標準
- 繰下げ受給(最大75歳)で年金額を増やせる
- 働きながらも受給可能(在職老齢年金の制度改正で緩和)
■ 2. 働く収入(雇用・業務委託・副業)
年金だけでは不足しやすい部分を補う「運転資金」。
- 再雇用・シニア採用
- パラレルキャリア
- 業務委託・個人事業
- 副業・オンライン収入
“少しだけ働く”ことができる選択肢が増えています。
■ 3. 積立・資産運用(預貯金・NISAなど)
収入が波形になる時期の「調整役」として機能します。
この3つをどう組み合わせるかで、
定年後の安心度は大きく変わります。
■ 65〜70歳は「つなぎ期」として最重要
60代後半は、働ける人が多いにもかかわらず、
収入の固定化が難しい“つなぎ期”です。
ここで無理なく働ける環境があると、
- 年金を繰下げて受給額を増やせる
- 仕事の感覚を保てる
- 社会との接点を維持できる
- 貯蓄の取り崩しを減らせる
というメリットがあります。
70歳までの収入戦略は、老後の安心を左右すると言っても過言ではありません。
■ FP視点:年金と働く収入の「最適化」
年金制度には、働く人向けの仕組みが拡充されています。
■ 1. 在職老齢年金の基準が緩和
以前よりも「働きながら年金が減らない」ケースが増えました。
働く意欲がある方にとって、大きな追い風です。
■ 2. 繰下げ受給で最大84%増額(75歳受給)
- 65歳 → 標準
- 70歳 → 約42%増
- 75歳 → 約84%増
働きながら繰下げれば、老後の所得水準が一気に高くなります。
■ 3. 60代前半の無年金期は「柔軟に働く時期」
60代前半は厚生年金の再雇用や短時間勤務で
つなぐケースが多くなっています。
■ 具体的な働き方モデル(50代・60代向け)
以下は、実際に多い働き方の組み合わせ例です。
■ ① 65歳までフルタイム → 65〜70歳は週20〜30時間勤務
最も現実的で人気のあるモデルです。
- 健康管理と両立できる
- 社会保険を継続できる
- 年金繰下げがしやすい
- 仕事量の調整が簡単
■ ② 60代後半からパラレルキャリア(少額の複収入)
- コーチング
- セミナー
- 地方企業支援
- 事務代行
- オンライン業務
- ライティング
働くほど年金に依存しなくて済むため、老後が安定します。
■ ③ 50代後半から業務委託に移行し、70代まで継続
管理部門経験者に多いモデルです。
- 営業・総務・人事・経理
- 研修設計・研修講師
- コンサルティング
スポット契約で無理なく働けるため、継続率が高い傾向があります。
■ ④ 小さく独立 → 年金と組み合わせる“二本立て”スタイル
50代・60代で独立する人も増えています。
- 自分のペースで働ける
- 収入が波形でも年金が支えてくれる
- 心理的な自由度が高い
“年金を土台にして働く”ことで、
無理のない独立が可能になります。
■ 定年後の収入戦略で最も重要なこと
定年後の収入戦略は、
「いくら稼ぐか」ではなく「どれだけ安心して暮らせるか」が本質です。
そのため、以下の視点が欠かせません。
● 健康を最優先にする
70代まで働くなら、体力の管理が収入以上に重要です。
● 社外のつながりを早くつくる
仕事の多くは、人脈を通じてもたらされます。
インターン・コミュニティ・副業は有効です。
● 小さく始めて長く続ける
大きな収入より、つづく収入のほうが価値があります。
● 仕事と年金を組み合わせて「負担を均す」
年金だけに依存しない設計が安心を生みます。
結論
定年後の収入は、「年金+働く収入」の組み合わせが最も現実的で安定します。
そして、50代・60代はその準備を始めるのに最良の時期です。
- 70歳まで働く選択肢が広がっている
- 年金制度が働く人に有利に改正されている
- 業務委託・副業・パラレルキャリアが一般化している
- 学び直しと組み合わせることで新しい働き方が見つかる
“働きながら安心して年金を受け取る”
というスタイルは、これからの定年後の標準となるはずです。
次回は、第7回「50代のキャリア迷子を防ぐ── 自己肯定感を取り戻す方法とメンタルケア」をお届けします。
出典
- 厚生労働省「在職老齢年金の制度概要」
- 内閣府「人生100年時代構想会議」資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
