老後の住み替えや介護の場面では、「自分の家庭ではどうすればいいのか」「どの選択肢が正しいのか」という悩みが必ず生まれます。教科書的な説明では分かりにくくても、実際の家庭に近いケースを通じて考えると、判断のポイントが明確になります。
本稿では、
- 一人暮らしの後期高齢者
- 地方に住む親を呼び寄せるケース
- 夫婦のどちらかが介護状態になったケース
という3つの代表的な状況を取り上げ、それぞれの“住まいの選択肢”“費用感”“家族の関わり方”を整理します。
ケース1
「75歳・女性・一人暮らし」
都市部への住み替えで安心を確保した例
◆ 背景
・地方の戸建てで一人暮らし
・冬の雪かき、車の運転に不安
・子どもは都市部(東京)に在住
・健康状態は比較的良好、要支援なし
・近隣の友人が減り孤立感あり
◆ 課題
- 通院は車が必須
- 買い物が不便
- 夜間の急病時が不安
- 子どもが遠方でサポートしづらい
◆ 選んだ住まい
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
・都市部の駅近
・安否確認・生活相談あり
・外出自由で自立生活を継続可能
◆ 費用
- 家賃 11万円
- 共益費 1.5万円
- 生活支援サービス費 1.5万円
- 合計:月14〜15万円前後
(地方の戸建て維持より実質負担は大幅増)
◆ 生活の変化
- 「雪かき」「運転」「買い物」の不安がゼロに
- 体調不良時にスタッフへ相談可能
- 子どもが訪ねやすくなった
- 外出や趣味活動が増え、生活の質が向上
◆ ポイント
→ 「見守りサービス+生活の便利さ」を優先すると、都市部サ高住は大きな選択肢になります。
ケース2
「80代の親を地方から呼び寄せ」
都市部の賃貸+在宅介護で支える例
◆ 背景
・80代の両親(父:要介護2、母:自立)
・地方の実家は老朽化
・娘夫婦が首都圏で在住
・父の通院が毎週必要、母の負担が限界
◆ 課題
- 地方では訪問介護の事業者が少なく確保できない
- 病院まで片道30分以上で母の付き添いが重い
- 夜間の急変が心配
- 娘夫婦は遠距離で頻繁に帰省できない
◆ 選んだ住まい
UR賃貸の2DK(エレベーター付き)
・家賃 8.5万円
・保証人不要・高齢者でも入居しやすい
・近隣に病院・スーパーあり
◆ 選んだ介護体制
- 訪問介護(週4回)
- デイサービス(週2回)
- 訪問看護(月2回)
- 福祉用具レンタル(歩行器・手すり)
◆ 生活の変化
- 父の通院がタクシー10分で完結
- 母の負担が大幅減
- 娘夫婦が週末にサポートしやすくなった
- 介護保険サービスをフル活用できるように
◆ 費用感
- 賃貸家賃:8.5万円
- 介護保険自己負担:月1.5万円
- 生活費:15〜20万円
(地方より固定費は増えたが、安心感は大幅に改善)
◆ ポイント
→ 呼び寄せ介護の成功は「医療への距離」「介護サービスの確保」にかかっています。
ケース3
「夫が80歳で要介護3」
妻と二人暮らしの“自宅か施設か”の判断
◆ 背景
・夫80歳(要介護3)
・妻78歳(自立だが体力に不安)
・持ち家(エレベーターなしの3階)
・近隣の親族なし
・妻ひとりでの介護が限界
◆ 課題
- 階段の昇り降りが危険
- 妻の身体負担が大きい
- 夜間の排泄介助で睡眠不足
- 夫本人の認知機能が低下
- ヘルパーの利用だけでは補えない
◆ 選択肢
- 自宅をバリアフリーに改修して住み続ける
- サ高住へ夫婦で住み替える
- 夫のみ介護付ホームに入居、妻は近隣の賃貸へ
- 夫婦で介護付ホームに入居(高額)
◆ 実際の選択
3. 夫のみ介護付ホームへ入居し、妻は近隣賃貸へ住み替え
◆ 理由
- 夫は24時間介護が必要
- 妻の体力的・精神的負担を最小化
- 妻は自立生活が可能
- 経済的にも「夫のみ入居」が最も現実的
◆ 費用
- 夫:介護付ホーム 月25万円
- 妻:賃貸の家賃 月7万円
- 合計:月32万円前後
◆ 結果
- 夫は安定したケア環境で穏やかに過ごせるように
- 妻は自分の生活リズムを回復
- 面会は電車で10分、無理なく通える距離
◆ ポイント
→ 高齢夫婦は「二人の介護度の差」が住まいの方向性を大きく左右します。
3つのケースに共通する“判断ポイント”
1. 医療・介護へアクセスしやすいか
距離や交通手段は、生活の安心に直結します。
2. 家族の負担は適切か
介護の8割は家族が担っていると言われ、負担度を軽減する住まい選びが重要です。
3. 費用は持続可能か
初期費用+月額費+将来の医療・介護費をセットで試算します。
4. 本人の意思が尊重されているか
本人が納得して住み替えるかどうかで、その後の生活の質が大きく変わります。
5. 将来の変化に対応できるか
住まいは「最低でも5年後を見据えて」柔軟性を持つことが重要です。
結論
老後の住み替えや介護の判断に“絶対の正解”はありません。しかし、実例を通して見えてくる共通点は確かにあります。
- 安全に暮らせる住環境
- 医療・介護サービスへのアクセス
- 家族の負担の軽減
- 継続可能な費用
- 本人の意思の尊重
これらを丁寧に整理していくことで、その家庭にとって最適な選択が見えてきます。
老後の住まい選びは「生活そのものの再設計」です。
家族が協力し合い、親の価値観と現実的な条件を合わせて考えることで、より安心で満足度の高い暮らしが実現します。
出典
厚生労働省「介護保険制度」、総務省統計、高齢者住宅情報サービス各社資料 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
