高齢期の住み替えは、体力や健康状態だけで判断するものではありません。実際には、住み替えにかかる費用をどれだけ早く把握し、無理のない計画を立てられるかが大きなポイントになります。
「子どもの近くに移住したい」「医療が充実した都市部の住まいに変えたい」と考えても、敷金・礼金、引越し費用、高齢者向け住宅の入居金、介護サービスの利用料など、費用は多岐にわたります。
本稿では、高齢者が住み替える際に必要となる代表的な費用を整理し、総額の目安と注意点を解説します。
1. 高齢者の住み替えで発生する主な費用
住み替え時に必要となるのは、大きく次の5つです。
- 賃貸住宅の初期費用(敷金・礼金・仲介手数料)
- 引越し費用(荷物量・距離・作業内容で変動)
- 高齢者向け住宅の入居費・月額費
- 家具・家電の買い替え費用
- 介護サービス費(要介護度に応じて変動)
これらを組み合わせると、住み替えの総額は数十万円〜数百万円の幅があります。
2. 賃貸住宅の初期費用
都市部で高齢者が住み替える際、一般的な賃貸(UR、高齢者歓迎の民間物件に含む)では以下の費用が発生します。
◆ 敷金
家賃1〜2カ月が一般的。URは礼金なし敷金2カ月が標準。
◆ 礼金
家賃1〜2カ月。ただし最近は「礼金ゼロ物件」も増加。
◆ 仲介手数料
家賃1カ月+税が上限。
◆ 初期費用の合計目安
家賃10万円の物件なら、
約30〜40万円前後が相場です。
※高齢者の場合、保証会社の利用が必須となるケースが多く、追加費用が生じることもあります。
3. 引越し費用
引越し費用は、荷物の量・移動距離・オプションで大きく変動します。
◆ 同一市内
3〜10万円(単身)
8〜20万円(2人分の荷物)
◆ 他県への移動
10〜30万円(単身)
20〜50万円(2人分)
◆ 高齢者特有の追加費用
- 家具の解体・組立
- 家電の取り外し(エアコン等)
- 不用品の処分代
- 荷造り・荷解きの代行サービス
高齢者の住み替えでは不用品が大量に発生しがちで、処分費用が5〜15万円発生するケースも珍しくありません。
4. 高齢者向け住宅の費用構造
住み替え先として選ばれやすい以下の住宅について、入居時と月額費を整理します。
(1)サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- 入居一時金:0〜数十万円(ゼロの物件が多い)
- 家賃:6〜15万円
- 共益費:1〜3万円
- 生活支援サービス費:1〜3万円
月額合計は 10〜20万円が一般的。
(2)介護付有料老人ホーム
- 入居一時金:0〜数百万円
- 月額費:20〜35万円程度
介護体制が手厚い分、費用は高くなります。
(3)シニア向け分譲マンション
- 購入費用:数千万円〜
- 管理費・修繕積立:月2〜5万円
- 生活支援サービス費:0.5〜2万円
「持ち家を売却して買い替える」場合は資産全体の整理も必要です。
5. 家具・家電の買い替え費用
高齢者の住み替えでは、次の理由で買い替えが発生しやすいです。
- 古い家電が重く、安全性が低い
- ワンルーム・1LDKへの住み替えでサイズが合わない
- ベッド・照明・カーテン等の買い替え
5〜20万円前後を見込んでおくと安心です。
6. 介護サービス費
要介護度に応じて大きく変動します。
◆ 介護保険の利用者負担
原則1〜3割。
例として「要介護2・自宅での介護サービスを利用」の場合:
- 訪問介護
- デイサービス
- 訪問看護
- 福祉用具レンタル
などを組み合わせた場合、
自己負担は月1〜3万円程度が一般的です。
ただし、「都市部は介護サービスが混み合っている」ため、必要なサービスが確保できないケースが増えています。
7. 住み替えの総額を試算すると?
典型的な例で総額をまとめると、以下のような目安になります。
◆ 都市部の賃貸(家賃10万円)に住み替え
- 初期費用:30〜40万円
- 引越し+不用品処分:10〜25万円
- 家具・家電:5〜15万円
- 合計:45〜80万円程度
◆ サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- 初期費用:0〜20万円
- 引越し+不用品処分:10〜25万円
- 家具・家電:5〜15万円
- 合計:15〜60万円程度
◆ 介護付有料老人ホーム
- 入居一時金:0〜300万円以上
- 引越し等の諸費用:10〜30万円
- 合計:10〜300万円超
(施設の価格帯により大きく異なる)
8. 住み替えを成功させるためのポイント
- 早めに住まい・費用・医療圏を調べる
- 物件見学は「日当たり」「段差」「浴室」など安全性を重視
- 親の荷物は段階的に整理する
- 子どもが付き添い、現地の医療・介護情報をチェック
- 資産・契約・住所変更の一覧化(管理ノートの作成)
住み替えは“引越し”ではなく、老後の生活基盤の再設計と捉えることが重要です。
結論
高齢者の住み替えには、敷金・礼金から引越し費用、介護サービス費まで、多くの費用が絡みます。無理のない計画を立てるには、初期費用+月額費+医療・介護費の3つをセットで把握することが不可欠です。
また、親の意思・健康状態・生活のしやすさを尊重しつつ、子ども側の負担も見据えた総合的な判断が求められます。住み替えを早めに検討することで、より安全で自分らしい老後を実現しやすくなります。
出典
厚生労働省「介護保険制度」、国土交通省「住宅関連統計」、介護事業者各社資料 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
