人生100年時代。「老後は静かな地方へ」というイメージは、いま大きく変わりつつあります。
近年、75歳以上の後期高齢者が別の市区町村へ住み替えるケースが増え、この10年で3割増となりました。特に顕著なのが「地方から都市部へ移り住む」動きで、終の棲家を都会に求める傾向が強まっています。
医療や介護資源が限られる地方では、買い物・雪かき・通院など、日常生活にかかる負担も重くなりがちです。いまの高齢者は「できる限り自立して暮らしたい」という志向が強く、元気なうちに都市部へ移住する動きが活発になっています。
本稿では、この流れの背景や課題、家族として何を考えておくべきかを整理します。
1. 後期高齢者の移住が増える背景
総務省統計では、75歳以上で市区町村をまたいで転居した人は
2014年 14万7千人 → 2024年 19万7千人(約3割増)。
65〜74歳は横ばい、25〜64歳はむしろ減少しているため、後期高齢者の移住の活発さが際立ちます。
理由として多いのは以下の通りです。
- 医療・介護体制の充実した都市部へ移りたい
- 子どもの近くで暮らしたい
- 1人暮らしの不安を減らしたい
- 地方生活の負担(雪かき・買い物・交通)が大きい
- 元気なうちに住み替えておきたい
いまのシニア世代は「子どもに迷惑をかけない」「自分らしく暮らしたい」という価値観が強く、早めの住み替えを選ぶ傾向が見られます。
2. 特に人気が高い都市はどこか
転入超過数が多い都市として、記事では以下が挙げられています。
- 札幌市(毎年1400人超)
- さいたま市・横浜市・福岡市(500人超)
- 相模原市・八王子市など、首都圏の中規模都市も人気
共通点は、
医療・介護資源が豊富で、日常生活の利便性が高い こと。
特に札幌市では、北海道全体の病院(20床以上)の約4割が集中しており、医療体制の充実が高齢者移住の大きな理由になっています。
3. 地方では介護サービスすら“存在しない”自治体も
厚生労働省の2024年調査を分析すると、全国1741市区町村のうち、
- デイサービス事業所がゼロ … 172自治体
- 訪問介護事業所がゼロ … 115自治体
- 両方ともゼロ … 58自治体
となっており、地域によっては介護サービスが確保できない現実があります。
この状況は、
「地方で暮らす親を、都市部へ呼び寄せる」
という動きを後押ししています。
4. 都市部に移住が集中した結果の課題
都市部の自治体では、後期高齢者の受け入れが増えることで以下の課題が生じています。
- 介護資源のひっ迫(ケアマネ不足・訪問介護の受け入れ制限)
- 自治体財政への負荷
- 地域コミュニティの希薄化リスク
特にさいたま市では、すでに訪問介護の新規申し込みが断られる事例もあるなど、都市部のサービス集中が顕在化しています。
5. それでも都会を選ぶ理由
高齢者や家族にとって、都会に移るメリットは明確です。
- 医療・介護へのアクセスが良い
- 買い物・移動が便利
- 子どものサポートを受けやすい
- 住宅・サービスを選びやすい
逆に、地方で要介護状態になった場合は
「介護サービスが不足して十分に受けられない」
という不安が強まっています。
高齢者向け住宅事業者によると、
子どもの近くに移住するケースは年々増加。
家族が介護施設を探す負担も、都市部の方が軽いのが現実です。
6. これから求められる街の姿
活発な高齢者移住は、都市計画にも影響を与えます。
- 医療・介護・住宅を一体化させた街づくり
- 高齢者の孤立を防ぐ交流の場
- 運動・会話が自然に生まれるコミュニティ
- 世代間が混ざり合い、長く住み続けられる環境
「元気なうちに都会へ移る」という流れは、単なる住み替えではなく、
高齢社会そのものをどう再設計するか
というテーマにつながっています。
結論
75歳以上の高齢者の移住が増えている背景には、
医療・介護への不安、地方生活の負担、子どもとの距離感、自立した暮らしへの志向
といった複数の要因があります。
家族にとっては、親の老後の暮らし方を早めに話し合うことで、無理のない住み替えを選びやすくなります。
また、都市部の自治体やサービスの混雑を踏まえ、早めに情報収集をしておくことも大切です。
老後の「終の棲家」は、単なる引っ越しではなく、人生の安心と自立をどうつくるかという選択です。地域ごとの格差が広がる中で、家族が共に考えるほど、より納得の行く選択につながります。
出典
- 日本経済新聞「終の棲家、都会に求める 75歳以上の移住3割増」(2025年11月16日)
- 厚生労働省 各種調査
- 総務省統計
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

