不動産を活用した相続税対策に変化の兆し― 賃貸マンション一棟買い・小口化商品への節税効果が議論対象に

税理士
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相続税の負担を抑える方法として不動産を活用する手法は、これまで富裕層を中心に広く行われてきました。なかでもタワーマンションや賃貸用不動産を利用した評価圧縮スキームは、一定の節税効果があることで知られています。しかし、政府の税制調査会では、こうした不動産を用いた節税策について見直しが議論され始めています。国税庁が具体的な事例を示し、節税効果が過度に大きくなり得る点を問題提起したことから、今後の制度改正の方向性に注目が集まっています。

不動産はなぜ評価が下がるのか

相続税では、財産を「時価」で評価し、相続人自身が税額を計算して申告する仕組みです。ところが不動産の「時価」は算定が難しいため、国税庁が毎年発表する路線価などを基準に評価します。
路線価は実際の取引価格を完全に反映するわけではないため、特に地価が高騰している都市部では、実勢価格よりも評価額が低くなる傾向があります。この差を利用することで、現金より不動産を相続した方が課税額を抑えられる構造になっているのです。

タワマン節税への対応と新たな論点

かつて多くの富裕層が利用していた「タワマン節税」に対しては、2024年から新しい評価ルールが導入されました。従来は実勢価格の4割程度にとどまっていた評価額が、新ルールにより6割程度まで引き上げられ、過度な節税効果が抑制されました。

しかし今回、国税庁が指摘したのはタワーマンション以外の別のスキームです。議論に上がっているのは主に次の2つです。


① 賃貸マンションを一棟丸ごと購入するケース

会合で紹介された典型例は、21億円で購入した賃貸マンションが、相続時に4.2億円の評価額となったというものです。
評価額が実勢価格の2割となっており、非常に大きな圧縮効果が生じています。

賃貸用不動産は「貸家建付地」や「借家権割合」などの評価減が働くため、購入価格に比べ評価額が大幅に下がるケースがあります。資産規模が大きいほどその効果が大きく、相続対策として利用されやすい点が課題として指摘されました。


② 不動産の小口化商品(不動産特定共同事業型など)

信託スキームを活用し、オフィスビルや賃貸マンションの持ち分を複数の投資家で共同所有する金融商品も広がっています。不動産会社や金融機関が販売しているもので、小口単位で不動産の権利を取得できる点が特徴です。

こちらも路線価ベースの評価が用いられることで、実勢価格との乖離が節税効果を生むとされています。個人投資家でも参加しやすいため、利用者が増加している点が政策上の懸念となっています。


今後見直しが進む可能性

政府の税制調査会は議論段階であり、具体的な制度改正は未定です。しかし、国税庁が具体例を示して問題視したことは大きな意味を持ちます。
今後は以下の方向性が検討される可能性があります。

  • 不動産評価と実勢価格の乖離を縮小するための新たな算定ルール
  • 賃貸不動産に係る評価減の見直し
  • 小口化商品の評価方法の厳格化
  • 形式的な節税を防ぐための総合的な判定基準の導入

特に、高額物件や金融商品を活用したスキームは、制度の趣旨を逸脱する「租税回避」に該当する可能性が問題視されています。


相続対策は「税額の最小化」より「トラブルの最小化」が重要

節税効果の大きさだけで不動産を購入することは、リスクやコストを見落としやすい点に注意が必要です。

  • 空室リスクや老朽化リスク
  • 売却時に実勢価格で課税される可能性
  • 投資としての利回り確保
  • 相続人間のトラブル
  • 改正リスク(今回の議論がまさに該当)

相続対策は、節税目的のみで判断するのではなく、資産管理・家族の意向・将来の負担を含めて総合的に判断することが大切です。

結論

不動産を活用した相続税対策はこれまで一定の効果があり、多くの富裕層の実務でも活用されてきました。しかし、制度の趣旨を逸脱した節税スキームへの対策は確実に進んでいます。今回の税制調査会での議論は、その流れがさらに進む兆しを示しています。
相続対策を検討する際は、制度改正の動きを注視しながら、投資としての妥当性や家族間の問題を含め、長期的な視点で検討することが重要です。

出典

・日本経済新聞「マンション一棟買い、相続の節税効果指摘」(2025年11月14日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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