法人保険には多くの種類がありますが、特に経営者や税務の現場でよく登場するのが「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」です。
これらはかつて「節税保険」として注目を集めましたが、現在は税制改正により損金算入が大幅に制限されています。
この記事では、それぞれの保険の仕組みと税務上の位置づけを整理し、正しい活用法を考えます。
1. 定期保険の基本構造
定期保険は、契約期間中に被保険者が死亡した場合に保険金が支払われる仕組みです。
掛け捨ての性格が強く、期間満了時に生存していても満期金や返戻金は発生しません。
そのため、法人が契約する場合には保険料の全額を損金算入できるケースが多くなります。
これをベースに、返戻金を一定程度持たせた商品が「逓増定期」や「長期平準定期」です。
2. 逓増定期保険の仕組み
逓増定期保険とは、契約期間の経過に伴い死亡保険金額が徐々に増加するタイプの定期保険です。
加入初期は保険金額が小さいものの、年々増加していくため、企業の成長や経営者の在任期間に合わせた保障設計が可能です。
特徴は以下のとおりです。
- 契約後数年で解約返戻率が高くなる(ピーク時には70~90%に達することも)
- 返戻率が高い時期を狙って解約すれば大きな解約返戻金を受け取れる
- 税務上は返戻率に応じて損金算入割合が制限される(現在は多くが資産計上)
かつては、保険料の全額を損金にしながら返戻金を受け取る「節税保険」として使われていましたが、
2019年の通達改正で実質的に損金算入不可となりました。
現在は、保障重視の設計を除き、節税効果は期待できません。
3. 長期平準定期保険の仕組み
長期平準定期保険は、被保険者の死亡保障を長期間・一定額で設定するタイプの保険です。
期間は15~30年と長く、解約返戻金も中盤から後半にかけて徐々に増えていく仕組みになっています。
主な特徴は次の通りです。
- 保険料負担を長期的に平準化できる(費用が安定する)
- 解約返戻金が中期以降に一定割合で発生する
- 損金算入は原則として1/2損金・1/2資産計上
- 経営者の退職金準備に利用されるケースが多い
ただし、実質的に資産性が高いため、契約目的が明確でない場合は損金否認リスクがあります。
特に「経営者のみ」を対象にした契約では、福利厚生目的とは認められにくいため注意が必要です。
4. 税制改正による取扱いの変化
2019年の法人保険に関する税制改正により、解約返戻率が高い商品は次のように扱われるようになりました。
| 解約返戻率 | 損金算入割合の目安 | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 50%以下 | 一部または1/2損金可 | 限定的に損金算入可能 |
| 50%超 | 原則損金不算入 | 解約返戻金に対応する部分は資産計上 |
つまり、返戻率の高い「逓増定期」などは節税目的での利用が難しくなり、
今後は保障目的・資金準備目的の明確化が求められます。
5. 実務での使い分け
経営者や企業がこれらの保険を検討する際には、次のような観点で選択するのが現実的です。
| 目的 | 適した保険 | 税務処理の特徴 |
|---|---|---|
| 経営者死亡時の事業保障 | 定期保険(掛け捨て) | 全額損金可 |
| 長期的な退職金準備 | 長期平準定期 | 1/2損金可(要件充足) |
| 経営リスクに応じた保障額変動 | 逓増定期 | 現在は資産計上が原則 |
節税効果を重視するのではなく、
「どの時期にどんな資金を準備しておきたいか」を軸に検討するのが適切です。
結論
逓増定期保険や長期平準定期保険は、かつて節税商品として注目を集めましたが、現在は税制上の制約が強まり、
あくまで「保障」や「資金準備」のために活用する位置づけとなっています。
経営者や従業員のリスクに備えながら、退職金制度や財務戦略と整合させて導入することが、法人保険を賢く使う第一歩です。
出典
- 国税庁「法人税基本通達9-3-5・9-3-6」
- 財務省「法人保険税制の見直しに関する資料(2019年改正)」
- 生命保険協会「法人保険の仕組みと税務取扱いハンドブック」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
