「保険で節税できる」といった話を聞いたことがある経営者も多いと思います。
しかし、法人契約の生命保険は税制改正や通達の見直しによって、かつてのように単純な節税効果を狙うことは難しくなっています。
とはいえ、法人保険は正しく活用すれば、経営の安定や退職金準備などに役立つ有効なツールでもあります。
この記事では、まず法人保険による節税の「基本の考え方」について整理します。
1. 法人保険の目的は「節税」だけではない
法人が生命保険に加入する理由には、節税以外にもいくつかの重要な目的があります。
たとえば、経営者や役員の死亡リスクに備える「保障目的」、将来の退職金や弔慰金のための「資金準備目的」、経営上の予備資金を積み立てる「財務安定目的」などです。
このように、保険は単なる税金対策ではなく、経営リスクを平準化する手段でもあります。
2. 「損金算入」とは何か
節税効果の有無を判断するうえで重要なのが「損金算入」という考え方です。
法人税の計算では、経費として認められる支出を「損金」と呼びます。
保険料を損金にできれば、その分だけ課税所得が減り、法人税の負担を抑えることができます。
ただし、すべての保険料が損金算入できるわけではありません。
保険の種類や契約形態によって、全額損金、1/2損金、資産計上など取り扱いが異なります。
3. 税制改正による大きな変化
かつては「全額損金で高い解約返戻金が得られる保険」が多数販売されていました。
しかし、2019年の法人保険に関する税制改正(法人税基本通達9-3-5の見直し)により、いわゆる「節税保険」と呼ばれる商品は大幅に規制されました。
この改正により、解約返戻金のある保険は「返戻率」に応じて損金算入割合が制限され、実質的に税負担の先送り効果しか得られなくなっています。
4. 節税効果を正しく理解する
法人保険の節税は、厳密には「課税の繰り延べ」である場合が多いです。
つまり、保険料を支払った時点で一時的に損金算入できても、将来、解約返戻金を受け取る際に益金として課税されます。
結果的には「税金を一時的に減らす効果」にとどまるケースがほとんどです。
とはいえ、利益が大きい年度に保険料を計上して税負担を抑え、将来の退職金支払いなどと相殺する形で取り崩す戦略は、資金繰り上は有効な場合もあります。
5. 保険活用の判断ポイント
法人保険を検討する際には、次の3点を意識することが大切です。
- 保険の目的が明確か(節税ではなく、経営上の必要性に基づくか)
- 解約返戻金の使い道が計画的か(退職金や事業承継など)
- 会計・税務処理を正しく理解しているか(損金・資産の区分、受取時の課税)
これらを踏まえたうえで、長期的な経営計画と整合させることが重要です。
結論
法人保険による節税は、単なる「税金対策」ではなく、企業の財務戦略の一部として捉えるべきものです。
保険を通じて、リスクに備え、資金を計画的に蓄えるという本来の目的を果たしたうえで、結果的に税務上のメリットが得られるのが理想です。
次回は、実際に「損金算入できる保険・できない保険」の区分を整理しながら、制度の仕組みを具体的に解説します。
出典
- 国税庁「法人税基本通達 第9章 役員給与・保険料の取扱い」
- 財務省「法人保険税制の見直しに関する資料(2019年改正)」
- 生命保険協会「法人保険の税務取扱いに関するガイドライン」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

