政府・与党の経済対策の中で注目を集めているのが「ハイパー償却税制」です。国民民主党が以前から提唱し、高市政権も検討を進めるこの制度は、企業の設備投資を強力に後押しする内容です。
本稿では、税理士・FP実務の観点から、制度の概要、即時償却との違い、企業や個人事業主にとっての影響、そして今後の留意点を整理します。
1. 「ハイパー償却税制」とは
「ハイパー償却税制」とは、企業が行う設備投資に対し、取得価額以上の金額を償却費として損金算入できる仕組みを指します。
たとえば、1億円の設備投資を行った場合、通常の減価償却では耐用年数に応じて分割償却しますが、ハイパー償却では1億円超(たとえば120%など)の金額を初年度に損金として計上できる形が想定されています。
この考え方は、減税によるキャッシュアウトの抑制ではなく、投資促進を通じて将来の税収増を狙う「積極財政型の税制」です。国民民主党は結党以来この構想を掲げており、設備投資主導の成長モデルを支える柱と位置づけています。
2. 「即時償却」との違い
「即時償却」は、取得価額の全額を初年度に償却できる制度です。すでに生産性向上特別措置法などで限定的に導入された例があります。
これに対し、「ハイパー償却」は取得価額を上回る部分まで償却できる点でより積極的です。
ただし、超過部分(たとえば20%)を損金算入した場合、その分は後年度に課税所得が増える「前倒し効果」にとどまらない可能性があり、恒久的な減税効果をもつかどうかが設計上の焦点となります。
税理士実務では、償却超過部分の税務処理が最も注意すべき論点になります。制度設計によっては、将来の取り崩しや調整勘定を求められる可能性があり、法人税法上の損金算入要件や会計基準との整合性を精査する必要があります。
3. 中小企業・個人事業主への波及効果
ハイパー償却の議論は大企業の設備投資を想定していますが、中小企業や個人事業主にも波及効果が見込まれます。
生産設備やデジタル投資(AI・クラウド・業務システムなど)が対象となれば、初期投資の負担を軽減しつつ、キャッシュフロー改善に寄与する可能性があります。
また、既存の中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制との重複適用をどう整理するかも、今後の実務上の重要論点です。
FP実務では、法人経営者が個人として行う設備投資(不動産事業や再エネ投資など)にも影響する可能性があります。減価償却を通じた課税繰延べだけでなく、投資回収期間の短縮による資産形成効果も検討の対象になります。
4. 財政運営との関係
ハイパー償却税制は、「責任ある積極財政」の象徴的政策ともいえます。国民民主党は、プライマリーバランスの単年度黒字化目標を柔軟に見直し、複数年度での均衡を図るべきだと主張しています。
高市政権も同様に、投資を通じた成長による税収増を重視しており、両者の政策的方向性は一致しています。
ただし、恒久減税化が進むと財政再建とのバランスをどうとるかが課題になります。設備投資偏重になれば、中長期的な需要構造の変化や地域間格差を拡大させる懸念もあり、慎重な制度設計が求められます。
5. 税理士・FP実務でのチェックポイント
実務対応としては、以下の3点が重要です。
- (1) 適用要件の確認:対象設備の範囲(新規・中古・IT資産を含むか)と、取得時期・事業計画認定要件の有無を確認する。
- (2) 損金算入時期と限度額:償却超過部分の税務処理(留保・繰越・取り崩しなど)を明確にし、申告調整への影響を把握する。
- (3) 資金繰り・会計処理:初年度の減税効果をキャッシュフロー計画に反映し、金融機関との信用格付けや税効果会計への影響も整理する。
これらは、税制改正法案や施行令の詳細公表後に具体的な実務指針として固まっていく見込みです。
結論
ハイパー償却税制は、従来の即時償却を超えた新しい設備投資支援の枠組みとして注目されています。企業にとっては大胆な投資促進策となり得る一方で、税理士・FPにとっては会計・税務・資金計画の三位一体の対応が求められるテーマです。
今後の税制改正大綱や関連政令を注視しつつ、顧客や企業への助言体制を早期に整えることが重要です。
出典
日本経済新聞「国民、年収の壁178万円を再要求 首相に経済対策提言」(2025年11月13日付)/財務省・国民民主党政策提言資料(2025年11月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

