AIを導入する税理士事務所が増えていますが、同時に「守秘義務」「契約」「説明責任」といった法的リスクへの配慮も欠かせません。
AIは便利である一方、入力した情報がどこに保存されるか、生成結果の誤りを誰が責任を負うかといった問題が生じやすい領域です。
ここでは、AI導入に伴う主要なリスクと、その管理・契約上の整理ポイントを具体的に解説します。
1. 守秘義務リスク ― 顧問先データの取り扱い
(1)AI利用における情報漏えいリスク
AIツールに入力した内容が、学習や外部サーバに残存する可能性があります。
特にクラウド型AI(ChatGPT、Copilotなど)を使う場合、入力情報が再学習に使われない契約形態かを確認することが必要です。
(2)実務対応ポイント
- 顧問先固有情報のマスキング:社名・個人名・金額を伏せた形で入力する
- AIツールの利用規約確認:「入力データが学習に利用されない」設定を選択
- 職員教育:所内でAIに入力してよい情報範囲を明文化
- 内部規程の整備:「AI利用ガイドライン」を所内マニュアルに追加
(3)顧問契約書の追記例
「当事務所は、機密保持契約及び守秘義務に基づき、AIツールを利用する際にも同等の安全管理措置を講じるものとします。」
2. 契約リスク ― AI出力と説明責任の整理
(1)AIの助言をどう位置づけるか
AIが生成する提案や分析は「補助的情報」であり、最終的な判断責任は税理士本人にあることを明確にしておく必要があります。
(2)顧問先との契約上の明確化
- AIの活用範囲を限定:「会計処理の効率化支援に限定し、最終判断は当事務所が行う」
- AI出力の性質を説明:「AIの提案は推定に基づくものであり、正確性を保証するものではない」
- 誤出力・誤助言時の責任範囲を明示:「AI出力の誤りによる損害については当事務所の故意または重過失による場合を除き、責任を負わない」
(3)AIを使った帳簿処理・申告業務の注意点
- e-Tax提出前に人間のレビュー工程を義務化
- チェックリストに「AI出力確認欄」を追加
- AIによるエラー検知ログを保存し、監査証跡として残す
3. データ保管・セキュリティリスク
(1)クラウド利用時の確認項目
- データの保存場所(国内/海外サーバ)
- 暗号化の有無(通信・保存両方)
- アクセス権限管理(誰が閲覧・削除できるか)
- ログの保存期間(監査証跡をどこまで残せるか)
(2)具体的対策
- Google Workspace、Microsoft 365などの法人契約版を利用
- 個人アカウント利用は禁止
- 退職者・外注者のアクセス権は自動削除設定に
- 顧問先データはAIツールとは物理的に別環境に保管
4. AI倫理・説明責任の確立
(1)税理士の倫理としてのAI利用
AIを使う際の倫理的注意点として、「透明性」「公平性」「説明可能性」が求められます。
税理士がAIに依存しすぎると、顧問先からの信頼を損ねる可能性があります。
(2)AI利用方針の開示
- 顧問先に「当事務所ではAIを一部業務効率化に活用しています」と明示
- 利用目的・範囲・管理体制を簡潔に説明する
- 不安を与えないよう、「AIはあくまで補助的に使用し、最終判断は税理士本人が行う」と伝える
(3)倫理的指針の策定例
「AIは事務作業の支援ツールであり、職業専門家としての判断を代替するものではない。
AIの出力を利用する際には、その根拠と限界を十分に理解し、説明責任を果たすことを原則とする。」
5. 継続的な監査と改善体制
- 半年ごとにAI利用のリスクアセスメントを実施
- 新しいAIツール導入時は、必ず法務・情報セキュリティ観点のレビューを行う
- 所内文書に「AI活用ログ」を残し、トレーサビリティを確保
- 定期的に職員・補助者向け研修を実施(入力禁止情報・AI倫理など)
結論
AIの導入は、事務効率化や品質向上に大きな力を発揮しますが、
同時に「情報管理」「責任範囲」「顧問先への説明」といった新しい課題も生まれます。
大切なのは、AIに依存するのではなく、AIを統制する立場を明確にすることです。
税理士としての専門性と説明責任を軸に据えたうえで、
AIを“使いこなす力”を磨くことが、次世代事務所の信頼基盤になります。
出典
- 日本税理士会連合会「AI活用に関する倫理・ガイドライン」
- 総務省「生成AI利用時のリスクと法的留意点(2024)」
- 経済産業省「中小企業DX推進指針」
- 国税庁「電子帳簿保存法Q&A」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
