補助金や助成金を活用する法人では、交付決定書、支出証憑、報告書などの書類管理が膨大になります。
これらを紙で保管し続けることは、コストやリスクの面で現実的ではありません。
2024年度改正により、電子帳簿保存法(電帳法)の実務運用が定着しつつありますが、補助金・助成金関連書類の扱いは依然として誤解が多い分野です。
本稿では、税理士・FPが顧問先に助言する際に押さえるべき「補助金会計×電帳法」対応の実務要点を整理します。
1. 補助金関連書類は「税務書類」としての保存義務を持つ
補助金の交付決定書、実績報告書、領収書等は、税務上も帳簿書類の一部として位置づけられます。
特に以下の書類は、法人税法・所得税法における保存義務が明確です。
- 補助金交付決定通知書(国・自治体からの交付決定)
- 交付申請書・実績報告書(収益認識に関係)
- 領収書・請求書・振込明細(支出証憑)
- 返納通知書・返還領収証(過年度修正に関係)
したがって、補助金事業の証憑類は、税務署・行政機関双方からの検査対象となることを前提に管理しなければなりません。
2. スキャン保存の実務ルール(2024年度版)
電帳法改正により、スキャン保存の要件は大幅に緩和されましたが、補助金関連書類では「真正性」「可視性」「検索性」の3原則を満たすことが不可欠です。
(1)真正性の確保
- タイムスタンプを付与するか、または事務処理規程を整備する
- 撮影時期を明確にし、再撮影・削除を禁止
(2)可視性の確保
- 補助金事業ごとにフォルダ管理し、閲覧可能な形式(PDF等)で保存
- 公開時にモザイク加工など改ざんと誤解される処理は避ける
(3)検索性の確保
- ファイル名に「日付+支出区分+金額」等を含める
- 補助金事業名・年度・支出区分で検索できる仕組みを構築
税理士・FPとしては、クライアントが「領収書を撮るだけ」で終わらせていないかを確認し、フォルダ階層と検索ルールを整備させることが重要です。
3. クラウド会計・補助金システムとの連携ポイント
現在、多くの補助金は電子申請化が進んでおり、「jGrants」や「中小企業等事業再構築補助金システム」などで申請・報告を行います。
これらのデータは電子保存の対象となるため、クラウド会計システム(freee、マネーフォワード、弥生など)と連携しておくと管理効率が向上します。
実務上は次の3点を押さえるとよいでしょう。
- 補助金システムの出力データをPDFで保存し、会計ソフトに添付
- 補助金事業ごとに会計科目・部門コードを分けて仕訳
- スキャン画像と元データ(PDF・CSV)を両方保存
このように、補助金の会計処理と電子保存を一体管理することで、監査対応・税務調査対応の双方に強くなります。
4. 実務上の落とし穴 ― 「メール添付書類」の保存忘れ
補助金の実務では、交付通知や確認連絡がメールで送られてくるケースが増えています。
しかし、メール添付のPDFやExcelファイルを正規の保存書類として扱っていない法人が少なくありません。
税務上は、メール本文も「電子取引情報」として保存義務があるため、
- 添付ファイルをダウンロードして保存するだけでなく、
- メール本文(送信元・日付・件名・本文)をPDF化して一体保存する
必要があります。
この点を放置すると、電帳法違反となるおそれがあるため、事務処理規程で「電子取引の保存手順」を明文化しておくことが不可欠です。
5. 顧問税理士・FPの支援ポイント
顧問先への指導では、次の3つの支援ステップを意識すると効果的です。
- 体制整備:事務処理規程・タイムスタンプ運用手順を確認
- 運用支援:スキャン保存・電子取引保存の実演指導
- 監査対応:保存書類の抜き取りチェックと是正提案
これらを定期的に行うことで、補助金関連書類を中心とした「電帳法監査支援パッケージ」として顧問業務を高度化することも可能です。
結論
補助金や助成金の電子帳簿保存法対応は、単なる“スキャン作業”ではなく、行政検査・税務調査の双方に耐えうるデジタル内部統制の構築です。
税理士・FPは、電帳法の運用を単独で指導するのではなく、補助金管理や会計実務と結びつけて助言することで、顧問先の業務品質を飛躍的に高めることができます。
電子保存のルールを「負担」ではなく「信頼の証」として定着させることが、これからの専門家の使命といえるでしょう。
出典:
・会計検査院「令和6年度決算検査報告」
・国税庁「電子帳簿保存法Q&A(令和6年改正版)」
・経済産業省「補助金等に係る経理処理要領」
・日本経済新聞(2025年11月6日朝刊)「税の無駄遣い540億円 昨年度、検査院報告」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
