会計検査院が指摘した基金の未使用資金や補助金の不適正管理は、行政だけでなく、補助金を活用する事業者や支援に関わる税理士・FPにとっても他人事ではありません。
補助金の返納を求められた場合、単なる資金の「戻し入れ」にとどまらず、法人税・消費税・会計処理の三面で影響が及ぶ可能性があります。
本稿では、補助金や基金に関する“返納リスク”が発生した際の実務上の整理と、税務上の留意点を解説します。
1. 「返納リスク」とは何か
補助金や基金事業では、交付要綱に定める目的に沿わない使途や、未使用のまま年度をまたぐ資金が確認された場合、国庫や自治体への「返納(返還)」を求められることがあります。
代表的な返納理由は次のとおりです。
- 補助対象外の支出(経費区分の誤り)
- 事業中止・縮小による未使用残額
- 事業完了後の報告書の不備・虚偽記載
- 補助金目的外の設備転用
返納は「支出の取消」とは異なり、原則としていったん収益計上された補助金を返すという扱いになります。そのため、会計上・税務上ともに再処理が必要です。
2. 会計処理の基本パターン
法人会計上、補助金返納は以下のように整理されます。
| 返納の内容 | 会計処理 | 備考 |
|---|---|---|
| 当期内の返納 | 収益を減額(雑損失計上も可) | 修正仕訳で対応可能 |
| 過年度分の返納 | 過年度損益修正損として処理 | 税務上は原則「損金不算入」だが一定例外あり |
| 固定資産関連(圧縮記帳適用済) | 圧縮額を戻入処理 | 固定資産除却・売却時に注意 |
特に圧縮記帳を行った補助金を返納する場合は、返納額に応じた圧縮額の戻入が必要であり、戻入額が課税所得に影響します。
また、返納時の仕訳には「雑損失」や「租税公課」などを用いるケースがありますが、返還義務が確定した日を基準に処理する点に注意が必要です。
3. 法人税・消費税への影響
法人税法上、補助金返納は「収益の取消」ではなく、「費用」として扱われるのが原則です。
ただし、次のように課税上の扱いが異なります。
- 当期の事業活動に関する返納 → 損金算入可
- 過年度収益に関する返納 → 原則、損金不算入(法人税法22条3項)
- 不正受給などによる返納 → 損金不算入(反社会的行為に起因する支出)
また、補助金返納に付随して遅延損害金を支払う場合には、損金算入が可能です(法人税基本通達9-7-15)。
一方、消費税については、返納額が課税仕入に該当しないため控除対象外です。請求書等保存義務の対象にもならない点に注意しましょう。
4. 実務でのチェックポイント
税理士・FPとしては、補助金・基金関連の返納リスクを事前に把握する体制を整えることが重要です。
特に以下の3点を定期的に確認しましょう。
- 補助金交付要綱と報告書の整合性
― 支出時期・領収書・契約日付のずれがないか。 - 未使用残高の早期返納ルール
― 年度末の預金残高が交付額を上回っていないか。 - 返納時の税務処理メモの作成
― 損金算入可否の根拠を文書化しておく。
これらを実施することで、後日の税務調査や行政監査においても、合理的な説明が可能になります。
結論
補助金・基金の返納リスクは、制度上避けられない側面を持っています。
しかし、資金管理・事後報告・税務処理の3つを連携して管理することで、無用なトラブルや課税リスクを防ぐことが可能です。
税理士・FPは、補助金を「もらうとき」だけでなく「返すとき」にも正しい会計処理を指導できる存在であることが求められます。
出典:
・会計検査院「令和6年度決算検査報告」
・国税庁「法人税基本通達」
・日本経済新聞(2025年11月6日朝刊)「税の無駄遣い540億円 昨年度、検査院報告」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
