会計の現場では、AIが「入力業務を代行する」時代から、
「数字の背景を説明する」時代へと進化しています。
AIが仕訳・集計・分析を担い、
会計人はその結果を経営と社会に“説明する専門家”へ――。
自動化の先にあるのは、効率ではなく理解と信頼です。
本稿では、AIがもたらした「説明型会計」という新しい実務モデルを紹介します。
1. 自動化の定着 ― 仕訳は“入力”から“対話”へ
AIによる自動仕訳はもはや特別な技術ではありません。
領収書、請求書、電子帳簿、銀行データを自動連携し、
AIが取引の文脈を読み取って勘定科目を自動提案します。
たとえば――
- 「業務委託契約に基づく支払」→ 支払手数料(源泉徴収あり)
- 「展示会ブース費用」→ 広告宣伝費または販売促進費
AIは文章の意味を解釈し、過去の処理傾向も学習します。
このため、AIとの会話の中で「これは〇〇の目的です」と答えるだけで、
仕訳が完了する“対話型会計”が実現しています。
もはや会計人は「入力者」ではなく、AIに意図を伝える会計ナビゲーターなのです。
2. 分析の進化 ― AIが「異常」を見つけ「意味」を示す
AIは単にミスを検出するだけでなく、“なぜそれが異常か”を説明します。
たとえば、
- 「前年同月比で交際費が35%増加。主な要因は〇〇イベント関連」
- 「仕入勘定の変動率が販売高と乖離。原価認識のタイミングを再確認」
- 「人件費構成比が業界平均より2.8ポイント高い」
AIは数字を“読む”だけでなく、“語る”ようになりました。
この機能は、会計情報のストーリーテリング化を進め、
経営層が会計を「対話の言語」として使うことを可能にしています。
3. 「説明型会計」への転換 ― AIがつくり、人が語る
会計の役割は、
「数字を正確に作る」から「数字を理解させる」へと変化しています。
AIがデータ処理を担うことで、
会計人はその裏にある意図・背景・リスクを説明する時間を得ました。
たとえば、経営会議でのAIサポート報告は次のように変わります。
- 従来:
「販売費及び一般管理費は前年より5%増加しています。」 - AI活用後:
「AI分析によると、販売費の増加は広告キャンペーン強化によるもので、
ROI(投資効果)は0.18ポイント改善しています。」
AIが提供するのは“数字の理由”であり、
人間の会計人が伝えるのは“その意味”です。
この役割分担こそ、「説明型会計」の核心です。
4. AIが生む「説明責任」の透明化
AIはすべての処理履歴を自動記録し、
「いつ、誰が、どんな根拠で判断したか」を追跡可能にします。
これにより、内部統制や監査対応においても、
説明責任の可視化が実現します。
- AIが仕訳根拠を添付(契約書・請求書リンク付)
- 判断理由を自然言語で出力
- 監査時にAIログを参照可能
会計人は、AIの提案を確認・承認するだけでなく、
AIの判断を「なぜ正しいか」説明できる立場にあります。
このプロセスの積み重ねが、AI時代の信頼できる会計を支えます。
5. 会計人の新たな価値 ― 「データ翻訳者」としての専門性
AIは数字をつくる力を持ちますが、
数字の意味を社会・経営・顧客に翻訳できるのは人間です。
会計人に求められるのは、
AIが生成した情報を“経営が理解できる言葉”に直す力です。
- 「AIが示す異常値」を経営判断の材料に変える
- 「AIの数値分析」を将来戦略に接続する
- 「AIの確率予測」を会計方針に反映させる
つまり、AIを扱う会計人は、
“データの翻訳者”であり、“信頼の通訳者”でもあるのです。
6. 「説明型会計」がもたらす信頼の再設計
AIが数値を自動生成し、判断理由を可視化する時代では、
信頼は「人が作った数字」ではなく、
「人が説明できる数字」に宿ります。
会計はもはや帳簿ではなく、信頼を記録するプラットフォームです。
その信頼を形にするのが「説明型会計」。
AIはそのための道具であり、会計人はその理念を担う存在です。
結論
AIが創る会計の未来は、
数字の精度競争ではなく、説明の質の競争です。
AIが処理を自動化するほど、
会計人は「語る力」「つなぐ力」「理解させる力」を磨く必要があります。
会計はもはや「過去の記録」ではなく、
AIと人が共に未来を語る“信頼の言語”なのです。
出典
・日本公認会計士協会「AI会計支援と実務の将来像」
・経済産業省「AI会計DXガイドライン2025」
・OECD「AI and the Future of Accounting Transparency」
・IFAC「AI-Assisted Reporting and Accountability」
・デジタル庁「AI説明可能性ガイドライン2025」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
