副業・フリーランスのための経費計上と確定申告 ― 勤務先との調整実務(確定申告・税制改正ナビ 第18回)

税理士
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副業やフリーランス活動を行う人が増える中で、確定申告に関する質問の中心にあるのが、
「どこまで経費にできるのか」「勤務先にはどのように伝えればよいのか」という点です。
会社員でありながら副業収入がある場合、給与所得と事業所得(または雑所得)をどのように分け、
経費をどの範囲まで認められるかを整理することが必要です。
本稿では、副業者が押さえておくべき経費計上のルールと、勤務先との調整に関する実務を解説します。


副業の所得区分を明確にする

確定申告において副業収入は、内容によって「事業所得」「雑所得」「給与所得」などに分かれます。

所得区分主な内容経費計上申告方法
事業所得継続性・独立性のある業務(フリーランス・個人事業主)確定申告(青色・白色)
雑所得一時的・副業的な収入(副業ライター・セミナー講師など)可(限定的)確定申告
給与所得雇用契約に基づく副業(アルバイトなど)原則不可源泉徴収・年末調整

経費を広く認められるのは「事業所得」として扱える場合です。
副業でも取引先との契約形態や継続性があれば、事業所得として確定申告できます。


経費計上の基本原則

経費にできるかどうかは、「収入を得るために直接必要な支出」であるかどうかが基準です。

【副業でよくある経費例】

  • 打合せ・取材・出張の交通費
  • PC・周辺機器・クラウドサービス利用料
  • 名刺・ウェブサイト作成費
  • 書籍・専門誌・セミナー参加費
  • 自宅の一部を仕事部屋として使う場合の家賃・光熱費(按分)

ただし、「勤務先の業務と重複する支出」や「私的利用部分」は経費として認められません。
合理的な按分と証拠(領収書・メモ)の保管が重要です。


経費按分の考え方

副業は、勤務先との生活空間・時間が重なるケースが多く、按分計算が不可欠です。

項目按分の考え方実務のポイント
家賃・光熱費使用面積や使用時間で案分書面やメモで根拠を残す
通信費仕事用通信量/全体通信量データ利用量で割合を推計可
PC・スマホ仕事用と私用の利用時間比率家族共用機器は対象外
車・ガソリン代副業関連の走行距離/総走行距離ログを残すことで信頼性向上

この「合理的な割合」を一貫して使うことが、税務上の説明責任を果たす鍵となります。


勤務先との関係整理

副業を行う場合、勤務先の就業規則で「副業届」や「兼業禁止規定」が定められていることがあります。
特に企業情報を扱う職種や、競合他社との取引にあたる場合は慎重な対応が必要です。

【トラブル回避のポイント】

  • 事前に就業規則・雇用契約書を確認
  • 副業が「利益相反」や「守秘義務違反」に該当しないか確認
  • 必要に応じて「副業届」「兼業届」を提出
  • 勤務時間外・休日を活用し、本業に支障がない体制を整える

申告時点で副業の有無が勤務先に知られるケースは、「住民税の通知」が主な原因です。


住民税から副業が知られる仕組み

確定申告をすると、所得に基づいて住民税が計算されます。
この際、「副業分の住民税」が勤務先経由で通知されると、副業が発覚することがあります。
これを防ぐためには、確定申告書の第二表「住民税に関する事項」で次のように記入します。

「給与・公的年金以外の所得については、自分で納付(普通徴収)」にチェック

これにより、副業分の住民税は自宅に直接通知され、勤務先には反映されません。
ただし、市区町村によってはシステム上処理できない場合もあるため、申告後に確認しておくと安心です。


確定申告の実務手順(副業者向け)

  1. 帳簿・収支内訳書の作成
     副業収入と経費を整理し、事業所得または雑所得を計算。
  2. 所得控除・税額控除の確認
     社会保険料控除・生命保険料控除など勤務先分と合わせて申告。
  3. 住民税欄の選択
     副業分を「自分で納付」にチェック。
  4. e-Taxまたは紙で申告
     マイナンバーカード方式を使えば自宅から申告可能。
  5. 領収書・証憑の保存
     電子取引データは電子保存、紙領収書は7年保存。

青色申告の活用

副業でも、継続的に事業として行う場合は開業届+青色申告承認申請書を提出することで、
青色申告が可能になります。

  • 青色申告特別控除(最大65万円)
  • 赤字の3年間繰越
  • 家族への給与を経費化

フリーランスや講師、副業ライターなど、定期的に報酬を得ている場合は積極的に検討する価値があります。


結論

副業をめぐる税務は、「経費の線引き」と「勤務先への配慮」の両立が鍵です。
経費は「事業に必要な支出」であれば適切に計上でき、確定申告を通じて正しく節税することが可能です。
同時に、住民税の取り扱いや就業規則の確認を怠ると、思わぬトラブルを招くこともあります。
記録と説明を重ねながら、「透明性のある副業経営」を実践していくことが重要です。


出典
・国税庁「No.1350 雑所得の課税」
・国税庁「事業所得と雑所得の区分に関するFAQ」
・厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
・総務省「住民税の普通徴収・特別徴収の取扱い」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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