副業やフリーランス活動を行う人が増える中で、確定申告に関する質問の中心にあるのが、
「どこまで経費にできるのか」「勤務先にはどのように伝えればよいのか」という点です。
会社員でありながら副業収入がある場合、給与所得と事業所得(または雑所得)をどのように分け、
経費をどの範囲まで認められるかを整理することが必要です。
本稿では、副業者が押さえておくべき経費計上のルールと、勤務先との調整に関する実務を解説します。
副業の所得区分を明確にする
確定申告において副業収入は、内容によって「事業所得」「雑所得」「給与所得」などに分かれます。
| 所得区分 | 主な内容 | 経費計上 | 申告方法 |
|---|---|---|---|
| 事業所得 | 継続性・独立性のある業務(フリーランス・個人事業主) | 可 | 確定申告(青色・白色) |
| 雑所得 | 一時的・副業的な収入(副業ライター・セミナー講師など) | 可(限定的) | 確定申告 |
| 給与所得 | 雇用契約に基づく副業(アルバイトなど) | 原則不可 | 源泉徴収・年末調整 |
経費を広く認められるのは「事業所得」として扱える場合です。
副業でも取引先との契約形態や継続性があれば、事業所得として確定申告できます。
経費計上の基本原則
経費にできるかどうかは、「収入を得るために直接必要な支出」であるかどうかが基準です。
【副業でよくある経費例】
- 打合せ・取材・出張の交通費
- PC・周辺機器・クラウドサービス利用料
- 名刺・ウェブサイト作成費
- 書籍・専門誌・セミナー参加費
- 自宅の一部を仕事部屋として使う場合の家賃・光熱費(按分)
ただし、「勤務先の業務と重複する支出」や「私的利用部分」は経費として認められません。
合理的な按分と証拠(領収書・メモ)の保管が重要です。
経費按分の考え方
副業は、勤務先との生活空間・時間が重なるケースが多く、按分計算が不可欠です。
| 項目 | 按分の考え方 | 実務のポイント |
|---|---|---|
| 家賃・光熱費 | 使用面積や使用時間で案分 | 書面やメモで根拠を残す |
| 通信費 | 仕事用通信量/全体通信量 | データ利用量で割合を推計可 |
| PC・スマホ | 仕事用と私用の利用時間比率 | 家族共用機器は対象外 |
| 車・ガソリン代 | 副業関連の走行距離/総走行距離 | ログを残すことで信頼性向上 |
この「合理的な割合」を一貫して使うことが、税務上の説明責任を果たす鍵となります。
勤務先との関係整理
副業を行う場合、勤務先の就業規則で「副業届」や「兼業禁止規定」が定められていることがあります。
特に企業情報を扱う職種や、競合他社との取引にあたる場合は慎重な対応が必要です。
【トラブル回避のポイント】
- 事前に就業規則・雇用契約書を確認
- 副業が「利益相反」や「守秘義務違反」に該当しないか確認
- 必要に応じて「副業届」「兼業届」を提出
- 勤務時間外・休日を活用し、本業に支障がない体制を整える
申告時点で副業の有無が勤務先に知られるケースは、「住民税の通知」が主な原因です。
住民税から副業が知られる仕組み
確定申告をすると、所得に基づいて住民税が計算されます。
この際、「副業分の住民税」が勤務先経由で通知されると、副業が発覚することがあります。
これを防ぐためには、確定申告書の第二表「住民税に関する事項」で次のように記入します。
「給与・公的年金以外の所得については、自分で納付(普通徴収)」にチェック
これにより、副業分の住民税は自宅に直接通知され、勤務先には反映されません。
ただし、市区町村によってはシステム上処理できない場合もあるため、申告後に確認しておくと安心です。
確定申告の実務手順(副業者向け)
- 帳簿・収支内訳書の作成
副業収入と経費を整理し、事業所得または雑所得を計算。 - 所得控除・税額控除の確認
社会保険料控除・生命保険料控除など勤務先分と合わせて申告。 - 住民税欄の選択
副業分を「自分で納付」にチェック。 - e-Taxまたは紙で申告
マイナンバーカード方式を使えば自宅から申告可能。 - 領収書・証憑の保存
電子取引データは電子保存、紙領収書は7年保存。
青色申告の活用
副業でも、継続的に事業として行う場合は開業届+青色申告承認申請書を提出することで、
青色申告が可能になります。
- 青色申告特別控除(最大65万円)
- 赤字の3年間繰越
- 家族への給与を経費化
フリーランスや講師、副業ライターなど、定期的に報酬を得ている場合は積極的に検討する価値があります。
結論
副業をめぐる税務は、「経費の線引き」と「勤務先への配慮」の両立が鍵です。
経費は「事業に必要な支出」であれば適切に計上でき、確定申告を通じて正しく節税することが可能です。
同時に、住民税の取り扱いや就業規則の確認を怠ると、思わぬトラブルを招くこともあります。
記録と説明を重ねながら、「透明性のある副業経営」を実践していくことが重要です。
出典
・国税庁「No.1350 雑所得の課税」
・国税庁「事業所得と雑所得の区分に関するFAQ」
・厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
・総務省「住民税の普通徴収・特別徴収の取扱い」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
