「年末調整の時期になると、配偶者控除の判定がややこしい」と感じる人は多いでしょう。
配偶者や子どもなど家族の所得によって、控除の有無や金額が変わるためです。
特に近年は「年収の壁」への対策や就労調整支援策などが導入され、制度がより複雑になりました。
ここでは、扶養控除・配偶者控除の基礎から、実務上の判定ポイント、そして年末調整時の注意点を整理します。
扶養控除と配偶者控除の違い
まずは両者の基本的な違いを確認しておきましょう。
| 区分 | 対象者 | 控除を受ける人 | 所得制限 | 控除額(所得税) | 
|---|---|---|---|---|
| 配偶者控除 | 合法的な婚姻関係にある配偶者(所得48万円以下) | 納税者本人 | 納税者の所得1000万円以下 | 一般38万円/老人48万円 | 
| 配偶者特別控除 | 配偶者の所得が48万円超~133万円以下 | 同上 | 納税者の所得1000万円以下 | 最大38万円(段階的に減額) | 
| 扶養控除 | 配偶者以外の親族(16歳以上) | 同上 | 納税者の所得制限なし | 一般38万円/特定63万円/老人58万円・48万円 | 
「配偶者控除」は配偶者の所得が低い場合、「配偶者特別控除」は一定範囲内の所得がある場合に適用されます。
「扶養控除」は主に子どもや親などが対象です。
控除判定の基準 ― 「所得」と「年収」の違いに注意
判定に使うのは「所得」であり、「年収」ではありません。
給与所得者の場合は次のように計算します。
所得 = 給与収入 - 給与所得控除額
たとえば年収103万円の場合、給与所得控除額55万円を引くと所得は48万円となり、配偶者控除の対象になります。
一方、年収150万円なら所得は約95万円で、配偶者特別控除の範囲内です。
「年収の壁」とは
就労調整の話題でよく耳にする「103万円の壁」「130万円の壁」は、税制と社会保険制度の異なる基準を指しています。
- 103万円の壁:所得税・住民税の配偶者控除対象の基準(所得48万円=年収103万円)
 - 106万円・130万円の壁:社会保険加入の基準(勤務先や勤務時間によって異なる)
 - 150万円の壁:配偶者特別控除の満額適用上限(年収150万円以下で38万円控除)
 
税制と社会保険の「壁」は連動していないため、手取り収入を考える際は双方の制度を合わせて考える必要があります。
扶養親族の判定
扶養控除を受けるには、「生計を一にしていること」と「所得が48万円以下」であることが条件です。
高校生以下の子ども(16歳未満)は、扶養控除の対象外ですが、住民税の非課税判定では考慮されるため注意が必要です。
老人扶養親族(70歳以上)の場合、控除額は次のとおりです。
- 同居老親等:58万円
 - 同居していない老親等:48万円
 
また、留学中の子どもなど、生活費や学費を仕送りしていれば「生計を一にしている」とみなされます。
年末調整での実務ポイント
会社員など給与所得者は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に家族の情報を記入します。
年末時点での家族の所得状況に応じて控除を適用するため、次の点を確認しましょう。
- 年間の給与収入を見積もる際は、賞与や副収入を含める
 - アルバイト収入がある家族は、源泉徴収票を必ず確認
 - 配偶者特別控除の判定は、配偶者の所得区分ごとに段階計算
 - 年の途中で結婚・離婚・扶養異動があった場合は、申告書を再提出
 
電子化対応も進んでおり、2023年以降はマイナポータル連携で「配偶者控除等申告書」をオンライン提出できるシステムが普及しています。
確定申告での修正・再申告
年末調整後に配偶者や扶養親族の所得が変わった場合、確定申告で修正が可能です。
たとえば、配偶者のパート収入が見込みより多くなった場合、控除額の過大適用を修正して正しい税額を再計算します。
逆に、年末調整で控除を受け忘れた場合も、確定申告で控除を追加できます。
よくあるミスと注意点
- 配偶者特別控除を配偶者本人が申告してしまう → 控除を受けるのは「納税者本人」
 - アルバイト先が複数ある家族の収入を合算していない → 全ての収入を合計して判定
 - 親を扶養に入れ忘れた → 医療費控除など他制度にも影響
 - 住民税非課税世帯の判定と混同 → 所得税と基準が異なる
 
申告前に、家族全員の所得・収入・社会保険加入状況を一覧化しておくとミスを防げます。
結論
扶養控除・配偶者控除は、税額に直結する大切な控除です。
制度の仕組みを理解し、年末調整時点で家族の収入状況を正確に把握することがポイントです。
「誰を扶養に入れられるか」「配偶者の収入がどこまで控除対象になるか」を正しく判断し、
確定申告を通じて最適な形で税負担を軽減しましょう。
今後も「年収の壁」対策など関連制度の見直しが続くため、最新の改正情報の確認も欠かせません。
出典
・国税庁「No.1180 配偶者控除」
・国税庁「No.1181 配偶者特別控除」
・国税庁「No.1182 扶養控除」
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
・厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  