AIの進化により、会計・税務の分野では膨大な取引データを自動で分析する「AI監査」や「データ保証」の概念が急速に広がっています。
仕訳・証憑・レシート・電子帳簿などがリアルタイムで分析され、異常値やリスクをAIが検知する――そんな仕組みはすでに実用段階にあります。
しかし、AIが検知した“リスク”はあくまで確率的な予測であり、「正しいかどうか」を最終的に保証するのは依然として人間の責任です。
本稿では、AI監査時代の会計実務において、税理士・FPが果たすべき「信頼の保証者」としての役割を考えます。
AI監査とは ― 機械が数字を“読む”時代
AI監査とは、AIが取引データを解析して、不正や誤りの兆候を検出する監査補助技術です。
従来のサンプリング監査とは異なり、AIは全件データを分析し、異常な取引をリアルタイムで抽出します。
主な適用領域は以下の通りです。
- 領収書画像と仕訳の一致確認
 - 通関データや銀行明細との突合
 - 売上と入金のタイムラグ分析
 - 費用の増減パターンからの異常検知
 
このように、AI監査は「数字の整合性」を高い精度で確認できる一方、“なぜその数字が生まれたのか”という経済実態までは理解できません。
その空白を埋めるのが、専門家による「データ保証」の領域です。
データ保証とは ― 会計情報に「信頼の印」を与える仕事
データ保証とは、AIが処理したデジタル情報に対し、人間が検証と説明責任を加えるプロセスです。
従来の監査報告書が財務諸表を保証していたように、今後はAI処理データそのものに「信頼の認証」を付す動きが広がっています。
たとえば、
- 電子帳簿保存法の適用データが正しく保存・改ざん防止されているか
 - AI仕訳が人為的に修正されていないか
 - インボイス・通関証憑・決済記録が整合しているか
 
これらを第三者が検証し、「データの完全性」「再現可能性」「改ざん防止性」を保証します。
AIの判断に“透明性の認証”を与えることで、機械が出した結果を社会的に信頼できる形に変えるのがデータ保証の目的です。
税理士・FPが担う新たな役割 ― AI監査の「人間側レビュー」
AI監査の時代において、税理士やFPに求められるのは「数値の再確認」ではなく、「AIの検証者」としての役割です。
具体的には次の3つの機能が期待されています。
① AIの分析結果の合理性を評価する
AIが抽出した異常取引が本当にリスクを示すのか、取引背景・会計方針・法令改正を踏まえて判断する。
AIが“誤検知した正しい取引”を見抜く力が重要になります。
② AI処理のプロセス監査を行う
AI会計ソフトのアルゴリズムやデータ補正ルールが適切かを確認。
特定の取引を自動除外していないか、学習データの偏りを監査することが求められます。
③ データ保証の報告責任を果たす
クライアントや第三者に対して、AI会計が生成したデータの信頼性を「人間の言葉で」説明する。
ここで初めて、AIが扱うデータに社会的信頼のラベルが付与されます。
信頼の可視化 ― 「透明性」と「説明責任」の融合
AI監査や自動仕訳の時代において、信頼は「数字の正確さ」だけでは測れません。
重要なのは、
- どのようなアルゴリズムで分析したか、
 - どの範囲を人間が確認したか、
 - 結果に対して誰が責任を持つか、
――これらを明確に示すことです。 
つまり、「正しいこと」を前提とするのではなく、「正しいと説明できること」こそが新しい信頼の条件になります。
データ保証とは、この説明可能性を社会的に制度化する取り組みと言えます。
結論
AI監査は、会計の透明性と効率性を飛躍的に高めました。
しかし、“正しい”と“信頼できる”の間には、常に人間の判断が必要です。
AIが数値を照らし出すライトなら、税理士やFPはその光に“意味”を与えるレンズの役割を果たすべきです。
今後、データ保証の対象は財務情報にとどまらず、ESG・非財務情報・社会的インパクトにまで広がるでしょう。
AIの力で透明性を高め、人間の力で信頼を確立する――。
それこそが、AI時代の会計実務の核心であり、専門職の新たな使命です。
出典
出典:日本公認会計士協会「AI監査実務指針(2025年版)」
国税庁「税務行政DX推進ロードマップ(2025)」
財務省「令和8年度税制改正要望」
日本経済新聞(2025年11月3日)「個人輸入の税優遇廃止」関連記事
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  