AIと会計倫理 ― 自動化社会における“判断の質”をどう守るか

FP
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AIが会計や税務の現場に深く浸透しつつあります。
自動仕訳、領収書の読み取り、電子帳簿保存、AI監査補助――。
これまで人間が行ってきた「判断」や「確認」の多くが、アルゴリズムによって代替されるようになりました。

しかし、AIが提示する答えは「最も確からしい処理」であって、「最も正しい判断」ではありません。
数字の整合性が保たれても、倫理の整合性が保たれているとは限らないのです。
本稿では、AIが進化する時代において税理士・FPが守るべき会計倫理の本質と“判断の質”の維持について考察します。


AIがもたらす「判断の非個性化」

AI会計システムは、過去の仕訳データを学習して最も一般的な処理方法を提示します。
そのため、

  • 同じ取引であっても個別の事情を無視した「平均的判断」
  • 特殊要因や取引背景を考慮しない「非文脈的判断」
    が広がる傾向があります。

たとえば、特定の補助金を「雑収入」として自動計上した場合、AIは企業の事業目的や税法上の益金不算入要件を考慮しません。
結果として、誤りのない“形式的な数字”が、誤った経済実態を示すことになりかねません。

AIは誤魔化さないが、間違いを正すこともできない――。
この構造こそが、AI時代の会計倫理の根本的な課題です。


「正しい処理」から「誠実な判断」へ

会計倫理は単に法令遵守ではなく、意思決定における誠実性(integrity)を意味します。
税理士やFPは、取引を「数字で正しく表すこと」だけでなく、「意図を誠実に伝えること」まで責任を負っています。

AIが自動処理を進めるほど、

  • 「なぜこの仕訳になったのか」
  • 「なぜこの経理方針を採用したのか」
    という“説明の倫理”が重要になります。

つまり、AI時代の会計実務では、正確さよりも説明可能性(explainability)こそが信頼の核心になります。
AIが透明性を失いやすいほど、人間の説明責任は逆に強化されるのです。


税理士・FPに求められる3つの倫理的姿勢

① 透明性の倫理 ― AIの判断根拠を「可視化」する

AIが出した仕訳や税務提案を「なぜそうなったか」説明できる形で残すこと。
ブラックボックス化したAI判断をそのまま採用するのではなく、判断過程を記録・補足説明する文化を築くことが必要です。

② 独立性の倫理 ― AIと距離を取る

AIが提供する便宜性やスピードに依存しすぎないこと。
判断に迷うときほど「AIがどう言っているか」よりも「自分が説明できるか」を基準に行動すべきです。

③ 公正性の倫理 ― データ偏りへの感度を持つ

AIは過去データを学習しているため、制度改正や業界特有の事情を反映しきれません。
「過去に正しかったことが、今も正しいとは限らない」という前提を常に持ち、
最新の法令と社会状況を踏まえて修正する姿勢が求められます。


会計倫理の再定義 ― 「AIを監督する人間の責任」

AIが高度化するほど、人間の責任は軽くなるどころか重くなります。
なぜなら、AIは自らの誤りを説明できないからです。

会計倫理の核心は、“人間が最終判断を下す”ことそのものにあると言えます。
税理士やFPが果たすべきは、AIの出した結論をそのまま受け入れることではなく、
「この結論が現実を正しく反映しているか」を批判的に検証すること。

つまり、AIが“処理する”時代において、人間は“解釈する”力を研ぎ澄ませなければなりません。
これこそ、会計と倫理の未来を支える専門職の役割です。


結論

AIは会計の精度と効率を劇的に高めました。
しかし、判断の質――つまり「なぜそれを選ぶのか」という価値判断の領域は、依然として人間の手に委ねられています。

税理士・FPは、AIの時代においてこそ、

  • データの正確性を監督し、
  • 判断の背景を説明し、
  • 会計を社会との信頼の橋として維持する、

――この「倫理的専門家」としての役割を強く自覚する必要があります。
自動化が進むほど、“人間らしい判断”の価値は高まる。
それが、AIと共生する次世代の会計実務の根本理念です。


出典

出典:日本税理士会連合会「AI時代の会計倫理指針(2025)」
国税庁「税務行政のDXと専門家の役割」
日本経済新聞(2025年11月3日)「個人輸入の税優遇廃止」関連記事


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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